4月、小泉チルドレンの元衆議院議員や羽柴秀吉氏ら4人の候補が立った北海道夕張市長選で、見事当選を果たしたのは30才になったばかりの元東京都庁職員・鈴木直道さんだった。
東京都の職員だった鈴木さんは、2008年から、財政破綻した夕張市に出向。2年2か月を過ごした。2010年4月からは内閣府に出向していたのだが、半年ほど経ったころ、運命が訪れた。夕張市民から市長選出馬の打診があったのだ。その中心を担ったのが、鈴木さんと一緒に市民活動に取り組んできたイベント会社「ネクスト夕張」の荒舘康治さん(37)だった。
「破綻して4年。次の選挙は“この人でいい”ではなく “この人がいい”という人を選ばないといけないと思いました。本当は市民から出すべきだろうけど、彼の2年2か月を見てぜひ夕張の未来を託したいと思ったんです」(荒舘さん)
出馬のハードルはとてつもなく高かった。市長に立候補するには、厚遇で知られる都の職員を辞めなければならない。選挙で勝てなければ、婚約者を抱えた身で無職となる。たとえ勝利しても市長の月収は25万9000円で都職員時代より年収は200万円ほど下がる。さらに経験のないなか、全国唯一の財政再建団体の困難な舵取りを担わなければならない。
普通に考えたら出馬はありえない選択だった。鈴木さんは何度も家族会議を重ねた。母親の再婚相手で義父の長峯正之さんが明かす。
「結婚して子供も生まれるでしょうし、やはり生活面を考えると悩んだ。給料だけが人生ではないけど、せっかく都にはいったのだからね。とくに妻は親心から反対していました」
しかし3週間悩んだ末の結論は、「出る」だった。鈴木さんが振り返る。
「素人の私が選挙でまともに戦えるのか不安だったし、負ける要素が強かった。相当悩んで毎日考え続けました。私の決断を『ばかじゃないか』という人もいますが、青春の日をともに過ごした仲間が涙ながらに『帰ってきてくれ』というんですよ。私を必要としてくれる人がいて、私とともに人生を賭けるという。これは人生で初めての経験でした。だから数パーセントでも可能性があれば、そこに賭けてみようという気になったんです」
※女性セブン2011年5月26日号