東日本大震災、福島第一原発事故によって、日本を代表する東北や北関東の観光地が風評被害に悩まされているという。これを聞いて、いてもたってもいられなくなったのがノンフィクションライターの北尾トロさん。
著作『もいちど修学旅行をしてみたいと思ったのだ』(小学館)の取材を通じて、全国の大観光地の底力に感激していただけに、どれほど大変な状況になっているのかこの目で確かめたいと思ったという。そして、連休が始まる4月28日から、日光、会津若松、ラーメンで知られる喜多方を巡る2泊3日の旅に出た。以下、北尾氏による報告だ。
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前に訪れたとき世話になった日光を知り尽くすプロのガイド、日光殿堂案内協同組合の大高政記さんを訪ねると、ガイドになって30年、こんなにヒマな春はなかったと苦笑する。 「震災後、私がガイドしたのはわずか3組です。ガイド料は5500円だから、1か月半で2万円以下の収入。事務所に長時間待機しすぎて、お尻に座りダコができちゃいましたよ」
震災直後、東照宮の入場者は1日に30人台まで落ち込んだ。広大な境内では誰もいないに等しい。団体客のツアーはすべて取りやめ。外国人の姿もぱったり消えた。関東からの客足も途絶え、関西の個人客がわずかにやってくる程度だそうだ。うーむ。
ぼくも、こんな静かな東照宮は初めてだ。陽明門の手前から本社まで、視界を遮るものがない。いつも人だかりの絶えない、「見ざる・言わざる・聞かざる」で有名な神厩舎に人はおらず、行列必至の眠り猫も飽きるまで眺められる。
「一昨日、小学校の修学旅行が来てくれたんですが、子供たちの声が響きわたっていましてね。こんなこと、最近ちょっと記憶にないです」(大高さん)
では、日光は危険なのか。そんなことはない。震災後、市は日々の放射線量をチェック。水や野菜が汚染されていないことを確認し、2度も安全宣言を出している。それなのに人が来ない。原発への恐怖に加え、自粛ムードが拍車をかけている。被災地が大変なことになっているのに、遊びに出かけるなんて…というわけだ。
※女性セブン2011年5月26日号