昨季、12球団で唯一チーム本塁打数が200本を超えた巨人。ラミレス、阿部慎之助、小笠原道大らを並べる重量打線の破壊力がスゴいのは間違いない。でも、ちょっと多すぎやしませんか? しかも、本拠地・東京ドームでの試合では特に……。ファンの間でも長く囁かれてきたこの謎を検証してみた。
東京ドームのホームラン、俗に言う“ドームラン”の原因としてしばしば噂になってきたのは、換気の風が外野方向へ流れている、という「空調気流説」である。
「われわれの間では代々受け継がれている説なんです。ドームでは確かに風を感じるし、試合中に高い球がスタンドインすると、皆が“あァ、まただ”という気持ちでスコアをつけています(笑い)」(巨人番記者)
こんな証言もある。
「元巨人のコーチも務めた大物OBが、“酔っ払いの練習をしている主力選手がいた”と暴露したことがある。酔っ払いとはドームランの別名で、フラフラと上がった打球が千鳥足のまま柵を越えるから。その主力選手は、“どのあたりに打ち上げるとスタンドに届きやすいか”を打撃練習中に確かめていたというのです」(スポーツジャーナリスト)
東京ドームのモデルはMLB・ツインズがかつて本拠地にしていたメトロドーム。同球場では球場職員が「空調を操作して本塁打が出やすいようにした」と証言して大騒動になったことがある。冷静に専門家の解説も聞いてみた。信州大工学部機械システム工学科流体工学研究室の松原雅春・准教授はこういう。
「空気の流れを人為的に作れば、本塁打を増やすことは可能でしょう。ホーム側から外野方向へ1mの風を吹かせると、滞空時間が4秒のフライの飛距離は約4m伸びます」
この指摘を球場を運営する(株)東京ドームに怖々ぶつけたところ、きちんと答えてくれた。
「本塁打を作り出す風が吹くという噂は把握していますが、そうした事実はありません。ファンでドーム内の空気を循環させていますが、打球に影響を与えるものではなく、機械を試合中に作為的に動かすこともありません」
施工主の竹中工務店も、「ドーム壁面には72か所の空調用送風口があり、中心方向へ均一に送風されていますが、ボールに影響を与えるほどの風は発生しません」との説明だった。
だが、東京ドームで高く上がった球が、何らかの影響を受けていると訴える選手は多い。ヤクルトの宮本慎也も、ある対談番組でこんな発言をしている。
「東京ドームではボールが飛ぶというより、なかなか落ちてこない。ポテンヒットになると思った打球がよく捕られてしまう」
この現象は、流体力学における「ベルヌーイの定理」が関係しているのではないかとの指摘がある。上層の空気の流れが速く、下層が遅ければ、そこに圧力差が生じ、間の物体に揚力が働くという定理だ。再び松原准教授に解説をお願いした。
「東京ドームの広さでベルヌーイの定理を人為的に作り出すことは難しいと思います。ただ、上部にあるファンが空気の流れを作っている可能性はゼロではない」
※週刊ポスト2011年5月27日号