『アルス・アマトリア』はローマ屈指の恋愛ハウツー本だ。作者のオウィディウスは紀元前43年生まれの詩人で、ラテン文学史を代表する逸材として評価が高い。オウィディウスは神話や伝説を引きながら、詩情と皮肉に富み、ユーモアも忘れない。邦訳は『恋愛指南』として岩波文庫から出版されている。
同書の中でも白眉は“美熟女のすすめ”。師匠も熟女との一夜に想いを馳せる。「年増の女は、身のためになるぞよ」「この年頃の女はあの方面についてはいっそう知恵が長けていて、床上手になるにはもっぱら経験がものをいうのだ」
小娘にはない熟れた色香。爛熟のローマの性を年増女が象徴する。
「せっかちな者は熟成していない新酒を飲むがよかろう。この私には、古い昔の執政官の時代に仕込んだ壷から古酒を注いでもらいたい」
師匠は女へ「愛に飢えた男たちに拒んではならない」と呼びかけた。そしてこうもいう。
「1000人もの男がそなたのからだをむさぼったとしても、それで失われるものはなにひとつない」
よくぞ言ってくださった。現代の弟子たる我々はこの卓見を胸に、さっそく女を口説こうではないか。
※週刊ポスト2011年5月27日号