3月11日の巨大津波により、岩手県の陸前高田市と大槌町、宮城県の南三陸町と女川町で、戸籍データ3万8000件が流失した。戸籍法に基づき、法務省が「副本」を管理しているため再製可能だが、江田五月法相は、同様の事態が再び起きないよう、戸籍の全国ネットワーク化を検討する考えを示している。しかし、「この問題をデータのリスク管理というレベルの話で終わらせてはならない」と指摘するのは、大前研一氏だ。大前氏は、長年政治課題として俎上に上がっている「電子政府」構築の契機とすべきであると主張する。
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国民情報を管理する現行のシステムは、完全に時代遅れだ。その問題は大きく二つの点が挙げられる。
一つが、データベース(DB)の乱立だ。納税者番号、年金、健康保険、運転免許証、パスポートなどは役所ごとに別々の番号が国民に割り振られ、しかも各データには互換性がない。
最寄りの役場に行けば戸籍、住民票、住基ネットなど、さらに互換性のない「基本情報」が乱立している。一方、選挙の時には投票用紙が自宅に送られ、投票所では紙ベースの照合が行われるなど極めて労働集約的で、事実総選挙の度に800億円の税金が投じられている。電子投票を構築している市町村もあるが、全てバラバラで統一地方選などに広く使えるものではない。
年金では紙台帳をデータベース化する過程で不正が起き、過去に積み立てた金額が分からないケースが山ほど出てきた。いわゆる「消えた年金問題」である。
また、日本の運転免許証や健康保険証は、海外で通用しない。1年しか使えない国際運転免許証を取得するためには、運転免許試験場や警察署に足を運び、写真を用意して2650円の手数料を払わねばならない。だが、日本の免許証に英語名を併記し、元号表記を西暦表記に改めさえすれば事足りるはずである。
要するに国が国民情報をコンピュータ上で一元管理することで利便性と公平性が飛躍的に向上し、税金の無駄遣いもなくなる、という納税者にとっては理想的な状況が生まれるのである。
事実、スウェーデンや韓国はこうした総合的な国民DBをもつ21世紀型システムにこの10年ほどの間で移行してきている。
※週刊ポスト2011年5月27日号