日本が震災の混乱にある中、火事場泥棒的に「領土」を奪う動きがある。韓国が竹島の実効支配を強固にする動きを加速させているのだ。日本はなす術なく、ただ見守るしかないのか。ジャーナリスト・辺真一氏が解説する
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2006年7月、韓国は日本が主張する排他的経済水域(EEZ)内に入り、海洋調査を行なった。国連海洋法条約では、他国のEEZ内における調査は事前通報が必要とされているが、韓国側からの通告はなされていなかった。
そのため、日本側は巡視船で調査を即刻中止するよう求めたが、韓国の調査船はこれを無視して続行した。調査船には韓国海洋警察庁の警備艦が1隻並走、韓国側は警備艦に対して、日本と衝突が起きた場合、発砲も辞さずとの指令が出されていた。
06年の時点での日韓の海軍力の差は歴然としていた。日本は世界で3位、韓国11位の実力であった。当時、安倍晋三氏が官房長官だったが、もし、日本が強硬な対抗措置をとっていたら、韓国の完敗に終わっていたはずだ。
衝突は避けられた。しかし、韓国側はこのときから、竹島実効支配を強化するプロジェクトを進めてきたのである。
そのために韓国はこの5年間、海軍力増強に努めてきた。 竹島から北西87kmの距離に位置する鬱陵島には2300t級の護衛艦を配置する。そして観光地で有名な済州島に海軍基地を建設。現在、済州島基地には独島級大型揚陸艦が配備され、最新型潜水艦が寄航できるよう整備している。その他、海軍力の増強はめざましいものがある。
これら海軍力の整備は、北朝鮮に対処するものと思われがちであり、韓国もそれを理由に増強してきた。だが、決して対北朝鮮だけではない。竹島実効支配のため、周辺への機動力を備えるためでもあったのだ。
韓国本土からの竹島の距離は、日本の本土・島根県からより遠い。そのため軍隊を派遣しても日本より到着が遅れてしまう。だが、鬱陵島からは87km、日本の隠岐から157kmだ。竹島周辺で有事が発生した場合、鬱陵島の基地からであれば、日本の自衛隊より俊敏に動くことができる。
昨年11月、北朝鮮によって延坪島が砲撃されて以来、韓国海軍は頻繁に軍事演習を行なっている。北朝鮮の奇襲攻撃や島への上陸を阻止するための演習であることはいうまでもないが、それが、必然的に独島防衛にも役立っていることを見逃してはならない。つまり、韓国にとっては“一石二鳥”の演習なのである。
いずれにしろ、竹島に海洋基地が創設されることで韓国による実効支配が強固なものとなる。そればかりか、韓国政府は、現在、海兵隊の駐屯も検討している。増強された軍備が日本に向けられる可能性がさらに高まってきた。
日本にとっての対処法は、現実的に2つの選択しかない。韓国のなすがままにしておくか、さもなくば、イギリスとアルゼンチンのフォークランド紛争のように、日本が武力で奪還するかの二者択一だ。
制裁措置で対抗する手も考えられなくない。「独島総合海洋科学基地」は現代建設と大宇建設が施工者となることが決まっている。北方領土でも同じような動きがあるが、日本の立場からすれば、日本の領土に入って行なう建設工事は主権侵害の何ものでもないからだ。
さて、竹島問題に日本はどう対処するのだろうか。
※SAPIO2011年5月25日号