「自分の足元がふらついていたら、地域の力にはなれないですからね。三陸ブランドを守るという強い気持ちで復興したい」と語るのは、創業70年を誇る岩手県釜石市の老舗料理店、中村家・中村勝泰社長だ。
三陸の海の幸が堪能できる『三陸海宝漬』が人気の中村家は、アワビやイクラ、ウニなどの高級食材を保管していた海辺の冷凍倉庫3か所が全て流され、海から高さ15mの高台にある生け簀も使用不可能に。さらに店から車で10分ほどの仕入れ先である湾内の漁業組合の養殖施設も流された。放流されるはずだったアワビやホタテの稚貝も波にのまれ、網の中で無残に干からびてしまった。
甚大な被害に「その場から逃げだしたい気持ちだった」という中村社長を奮い立たせたのは、友人の漁師や取引先からの励まし、商品を待ち望む客からの言葉だった。
震災から1か月後の4月11日、本社の冷凍倉庫で守られた食材を使い出荷を再開。
いま、あの日とは違う穏やかな海は、天然のアワビやウニが解禁を待ち、ワカメが茂っている。中村社長は海を眼前に、「自然と地域の復興を願って、心を込めて作っていく」と誓う。
【三陸海宝漬】350g 3000円
特製の醤油にアワビ、イクラ、メカブを漬け込んだ一品。『うに海宝漬』、新商品『海宝丸』もホームページや東京のアンテナショップ「いわて銀河プラザ」などで購入可能。http://www.iwate-nakamuraya.co.jp/
撮影■丹羽敏通
※週刊ポスト2011年5月27日号