「10万人態勢」で被災地での活動を続けている自衛隊。隊員たちは粛々と任務にあたっているが、訓練を積んだ彼らとて、心中に苦悩や葛藤がないはずはない。震災直後から活動をし、その時の思いを「日記」に残していた30代後半の自衛官に、ジャーナリストの藤野真功氏(※真は旧字)が話を聞いた。
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彼は、とつとつと話す。事態への苦悩や無力感も滲んでいたが、もちろんそれだけではない。多くの隊員が抱えていたであろう、“一抹の不安”を払拭したのもまた、今回の惨事だった。この時だけは少し、表情は明るかった。
「自衛隊員は、各々の力量でみれば世界に引けをとらないレベルにあると思っていますが、それでもやはり、永劫演習とも言うような日々を過ごしていると、わずかに“本当の有事”に対応できるのかと思うものです。でも、今回の災害派遣で、自分は組織としての自衛隊を内側から見直した面がありました」
その歓びは翌日、3月13日の日記に表われている。
〈3月13日
観光客を救出するために、ヘリで石巻市のホテルに向かう。このホテルは海岸線にあるが、高台のため、市街への道路が寸断されただけで、大きな被害はなかった。着陸予定地のゴルフコースを確認すると、驚いたことにゴルフをやっている人がいる。何が起こっているかを知らなかったのだ。
しかし、離陸して山を越え、石巻市街を一望した瞬間、宿泊客たちは愕然とし、ある者は泣き始め、私にしがみついてきた。自分には、頷くことしかできない。総合運動場で彼らを降ろすと、一人の中年男性に手を握られ、「本当にありがとう」と言われた。入隊してから20年近いが、国民から本気で御礼を言われたのは、初めてかもしれない。嬉しかった〉
〈拠点になった霞目飛行場は、陸上自衛隊が管理しているヘリコプターを主とした飛行場。平時は静かなこの飛行場も、今は消防ヘリ、警察ヘリ、防災ヘリ、ドクターヘリ、そして自衛隊機がところせましと並んでいる。今回、印象深いのは各省庁のヘリ運用がとても機能的に連携している点だった。
今までの災害派遣では、各省庁がバラバラに活動を行っていて、あまり連携を感じたことがなかったのだが、今回は違う。活動する地域を区切り、割振りを実施した。また、普段あまり接することのない消防、防災、ドクターヘリの関係者と情報交換、共有ができた。燃料補給に行くたびに、お互いの連帯感が強くなることを感じた〉
※SAPIO2011年5月25日号