百人組手といえば「実戦カラテ」で有名な極真会館の修行だが、落語の世界で「百人組手」に挑戦している猛者がいる。「落語界の武闘派」林家彦いちだ。
極真の百人組手は「一日に百人を相手に闘う」ものだが、彦いちの百人組手は十年がかりでの達成が目標。ほぼ毎月のペースで自分の落語会に「スゴ腕の落語家」を呼んで切磋琢磨するというイベントだ。
1969年生まれの彦いちは鹿児島の離島・長島の出身。高校では柔道部、国士舘大学時代には極真空手に入門して最強の男を目指した格闘系男子だが、落語家になりたいという「妄想」に取りつかれ、大学中退して1989年に林家木久蔵(現・木久扇)に入門、2002年に真打昇進している。
彦いちが知名度を大きくアップさせたのは、「SWA(創作話芸アソシエーション)」への参加だ。SWAは、集団でのブレインストーミングで新作落語を練り上げ、ネタを共有しパッケージとして有意義な落語会を行なうことを目標に、春風亭昇太が三遊亭白鳥、柳家喬太郎、林家彦いちらと結成したユニット。2004年から活動を開始、女性を中心とする若いファン層に熱烈に支持されて「落語ブーム」現象に大きく寄与した(今年いっぱいで活動休止)。
柔道や空手の修行に励んだ「武闘派」彦いちの新作には、格闘技や体育会系のネタが多い。鬼と呼ばれた女柔道家の純愛を描いた『青畳の女』では、「座布団を巴投げする」という荒ワザも飛び出す。タイから日本のボクシングジムに来た青年が「せめてセコンドとして役に立ちたい」と苦悩する『かけ声指南』も、主人公ムアンチャイの見当違いな熱血漢ぶりがバカバカしくて素敵だ。
※週刊ポスト2011年5月27日号