震災から2か月以上が経過しても明確な復興計画を打ち出せず、原発の事故対応も右往左往。この国の指揮官であるはずの菅直人首相の体たらくは、国民を呆れ果てさせた。『ジャーナリストの櫻井よしこ氏が、菅氏の「情けないリーダーシップ」を批判する。
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大震災発生から1か月の間に、菅氏は20以上もの会議を乱立させました。ダメな会社ほど会議が多いと言いますが、その典型です。官僚からは「会議では各省が状況を話すだけで終わり。報告ばかりで、誰も責任は取らない」という声があがっています。
ようやく、菅氏は乱立した組織を見直すと言い始めましたが、今の状況を見ると、彼の頭の中にはあたかも原発問題しかないかのようです。それが、この国の未来を危ういものにしていることに、氏は気付いていません。
大震災は間違いなく「国難」であり、これをどう乗り越えるかが問われていますが、他にも日本の将来を左右する大きな問題が目の前に数多くあるのです。
例えば6月までに決めるとしていたTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加を、日本は先送りにしました。このことは、日本抜きでどんどんTPPの制度づくりが進められてしまうことを意味します。本来なら日本も積極的にTPPの協議に参加し、壊滅的な打撃を受けた農業をいかに国際競争力のある産業に育て直していくかという発想で取り組むべきです。
また、日本が国難にある今こそ同盟国である米国との連携が重要であるにもかかわらず、ゴールデンウィークに予定していた「2+2」(日米安全保障協議委員会)の協議を先延ばしにしました。
菅氏は自分は「原発に詳しい」と思い込んで、この大災害の最中、原発について勉強しているようですが、呆れてしまいます。国の先頭に立つリーダーとして大きな視点で国づくり、復興への道筋を考えれば、もっとやるべきことがあるはずです。
にもかかわらず菅氏がそうしないのは、結局、彼は市民運動家であり、大きな枠組みで物事を見ることができない、つまり「国家観」がないからです。
前原誠司氏、枝野幸男氏、鳩山由紀夫氏……菅氏以外の民主党の面々を見渡してみても、残念ながら、国を牽引するリーダーとしてふさわしい人物は見当たりません。
「菅降ろし」に対して、菅氏を擁護する立場の人も、「今、もし解散されたら自分たちが落選する」と思って続投を許してきたのではないかとさえ疑ってしまいます。嘆かわしいばかりです。
この国難は、日本が力強い国に生まれ変わる機会にもなりえます。それを実現できる真のリーダーの登場を望まずにはいられません。
※SAPIO2011年5月25日号