【書評】『「キャリアアップ」のバカヤロー 自己啓発と転職の“罠”にはまらないために』(常見陽平/講談社+α新書/920円)
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「キャリアアップ」という言葉の茶番、転職活動で陥りやすい間違いや、資格取得、勉強会への参加など自己啓発にハマる若者の痛い様子などを面白おかしく描きつつ、納得のいくキャリア形成のために何をするべきかを解説した本である。著者の常見陽平氏は、『くたばれ!就職氷河期』(角川SSC新書)など、新卒の就活に関する本で知られる人材コンサルタント。本作は、苦しい就活のその先にある社会人生活の茶番ぶりを描きつつ、混迷の時代を生き抜くヒントを提示している。
同書では、「一に雇用不安、ニに雇用不安」という、働き続けることについての庶民の不安を代弁する。総合職社員は誰もが幹部候補生でずっと生き残りのために競わされる構造や、部下を指導できない「ゆとり上司」、企業で多発し「セ・パ両リーグ」と言われるセクハラ・パワハラ問題やメンタルヘルス問題などを赤裸々に描き、会社員が「キャリアアップしなくちゃ」と焦られる構図を指摘する。
ただ、この「キャリアップ」という言葉自体に筆者は大きな疑問を投げかける。キャリアとは自分が歩んできた轍(わだち)であり、アップもダウンもないからだ。しかし、この言葉に踊らされて、人材紹介会社に騙され給料が下がる転職をしてしまう構図、自己啓発本を読みあさり、勉強会や異業種交流会に通い、セルフブランディングに力を入れても、仕事がデキるようにならない様子などを滑稽に描いている。
「まず、スゴイ人への憧れをなくせ」と筆者は言う。その例として、経営者やビジネス書著者、ビジネス誌に登場するデキる社員などをあげている。これらが相当演出されて作られた偶像であることを暴きつつ、むやみに憧れ、迷走することについて警鐘を鳴らしている。
ほかにも、筆者の古巣であるリクルートとその社員が企業の実力以上に評価されていることを指摘。新卒の就活セミナーでも「元リクルートのトップ営業マンが語る、次世代リーダーになるためのセミナー」などが人気を博していることを紹介しつつ、「人材輩出企業」「新規ビジネス創造企業」と言われるこの企業について、「100人以上の企業の社長になった人はほとんどいない」「この10年間で出来た新しいビジネスはR25とHotPepperとポンパレくらい」などと指摘している。ただ、世間の評価は高く、「私は決して仕事のデキる社員じゃなかった」と前置きした上で、本人も転職活動を行う際は「元リクルート」ということで過大に評価されたことを明かしている。
楽して成功する法則などないことを指摘し、「まずは目の前の仕事にマジで取り組め」と、東日本大震災後の日本人に対して、愚直な生き方、働き方を提案している。