5月1日夜(日本時間2日)、国際テロ組織アルカイダの指導者、オサマ・ビンラディン容疑者の死亡発表に、“狂喜乱舞”するアメリカ人の姿が世界中に報道された。
米世論調査会社「ギャラップ」がアメリカ国民に行った調査では、ビンラディン容疑者殺害に「賛成」93%、「反対」5%、「わからない・未回答」2%と圧倒的な支持だった。
産経新聞の社会部記者からロサンゼルス支局長を務めた経歴を持ち、独自の視点で国内・国際問題を論評し続けているジャーナリストの高山正之さんは、そうしたアメリカ人の“表向きの反応”を「詭弁」ととらえている。
「多くのアメリカ人はビンラディン容疑者殺害後の喜びは報復感情ではなく、テロが終わった安堵だといいます。が、これは私にいわせれば詭弁です。なぜなら歴史上、アメリカは敵を見いだしては報復することで国をひとつに束ねてきた。それは愛国心を育てる手段であり、国民の側にもリベンジすることの愉悦があるのです」
国際法の観点からいっても、アメリカがなした行為は本来、あってはならないことだった。まず、殺害作戦はパキスタン政府に通告することなく行われたが、国際法ではこれは同国の主権侵害にあたる。事実、パキスタンの上下両院は米軍の襲撃作戦について、「一方的な行動で主権侵害に当たり、パキスタン国民は今後一切容認しない」などと厳しく非難する決議を全会一致で採択した。
アメリカは国連の安保理決議も無視している。アフガン戦争当時の決議では、ビンラディン容疑者を逮捕し、国際裁判にかける手順が定められていた。確かに戦争の終結によって決議は無効となったが、相手がいかに極悪非道の者であったとしても、国際裁判を経ずにアメリカ一国の判断によって事実上の“処刑”が行われるなど、許されることではない。しかもビンラディン容疑者は丸腰で、武装した歩兵を相手に反撃する術をもたない中での射殺だった。
それでも多くのアメリカ人は、ビンラディン容疑者殺害を「正義」と信じて疑わない。彼らにとって「アメリカの正義」こそが唯一無二の正義であるかのように。
※女性セブン2011年6月2日号