ソ連邦崩壊後、宇宙開発は米国の独壇場だった。しかし、中国は2003年に有人宇宙船の打ち上げに成功すると、2007年には衛星破壊兵器の実験に成功する。想像を絶するスピードで進歩を遂げる中国の宇宙開発について、ジャーナリストの古森義久氏が解説する。
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民間シンクタンク「国際評価戦略センター」の主任研究員を務めるフィッシャー氏は、中国の月探査計画の重要性を強調する。
中国側で「嫦娥(じょうが)計画」と呼ばれ、すでに月の周囲の軌道を回る衛星「嫦娥1号」が2007年10月に打ち上げられた。ちなみに「嫦娥」というのは中国の神話の月に住んだ女性の名前である。
「ここ2年ほどの間に中国は有人月探査計画で、2基の巨大な打ち上げ機によって130トンもの宇宙船を低軌道に乗せるという基本を決めました。アメリカ側のコンステレーション計画に似ています。しかしオバマ大統領はこの計画を昨年2月には中止しました。
一方、中国は全面的に前進し、2013年までに月に小型レーダーとレーザー距離計を積んだ物体を軟着陸させる予定です。この2種の計器は軍事的機能を有し、アメリカ側の深宇宙早期警戒衛星の位置をつかむ可能性があります。
同早期警戒衛星はアメリカに対する核ミサイルの発射を早期に察知する機能を有し、宇宙の深い、つまり高い位置に配備され、中国側にはいまは、その位置はわかりません。しかし月からこの種の計器を使えば、わかってしまうのです」
だから中国の月探査は、米中両国の軍事衝突の最悪シナリオでの米側の態勢を大きく崩しうるというのである。フィッシャー氏はさらに中国が2020年までに月に有人宇宙船を送りこみ、2049年までに軍事機能を持つ基地を月に建設する計画を有することをも強調した。他方、アメリカは月探査を断念する方向へ動いているというのだ。
フィッシャー氏は中国側の月の自然資源獲得の戦略意図も強調した。
「中国当局者たちは月でのトリチウムあるいはヘリウム3の獲得の意図を表明しています。ヘリウム3は核融合エネルギー炉の最高の燃料となります。トリチウムも貴重です。中国はすでに核融合炉の開発を進めており、その商業的な利用を実現しようとしています。
核融合エネルギーには当然ながら軍事戦略上の意義があります。だからこの点でも中国の月探査は軍事的要素が大きいのです」
フィッシャー氏はこの月探査の軍事意図の例証として中国最大の兵器製造企業の「中国北方工業公司」(NORINCO)が最近、月の資源を専門に調査する研究所を設立したことを明らかにした。
「NORINCOといえば、銃砲や戦車を製造する企業で、これがいまや月の資源の研究を開始し、月の表面を動く車両を開発するというのです。やがては月の軍事基地建設へと進むとみてよいでしょう」
中国の宇宙戦略は月の軍事利用を長期の戦略目的としているというのである。
※SAPIO2011年5月25日号