「CMを自粛することだけが、被災地への配慮なのか」…ある企業の宣伝担当者は考え続けた。「いや、CMだからこそ、できることもある」――そうしてできあがったCMに込められたメッセージは“日常に戻ろう”。
外国の少年が並外れた歌唱力で「ラララ~消臭力」と歌うCMの最後に出てくる「空気をかえよう」の文字。エステーの消臭芳香剤『消臭力』のCMだ。
これまでのエステーのCMといえば、テレビショッピング形式の『脱臭炭』や『消臭ポット』、鈴木喬社長自らが記者会見する『かおりムシューダ』などストライクゾーンをあえて外した笑いが売り。同社の宣伝部長兼クリエイティブディレクター・鹿毛康司さんは、準備を進めていたCMの中止を決めた。
「ところがツイッター上で、“エステーのCMで笑いたい”といったツイートがあったんです」(鹿毛さん)
一方で「がんばろう」「ひとつになろう」というCMには違和感を覚えたという。家庭向け商品をつくる企業としては、大上段に構えて応援するのではなく、日常に戻ろうというメッセージを込めるのがふさわしいと考えた。
子供を出演させる案をスタッフに伝えると「偽善っぽくないか」と反対された。CMの世界では「子供」と「歌」というのは王道中の王道。外した笑いをとってきたエステーらしくないという意見が多かった。
「ぼくは子供のかわいらしさをアピールするのではなく、子供の持つ未来への力、命を表現したいと思ったんです。“偽善”の“偽”の字をとったCMにしていこうと説得しました」(鹿毛さん)
ロケ地は、ポルトガルのリスボン。リスボンは18世紀に地震と津波で6万人以上もの犠牲者を出した場所なのだ。
「実はぼくはそのことを知らなかったんです。この非常時に海外でCMロケをやっていいものかどうか社長に相談に行くと、“見事に復興をとげた街だから、ぜひやるべきだ”と逆に教えられた次第で。社長からは“なんだ知らないでここを選んだのか”って笑われましたけれど(苦笑)」(鹿毛さん)
「あの子は誰?」と問い合わせが殺到した歌の上手な少年・ミゲルくん(12)は、ポルトガルでCDを3枚もリリースしているプロの歌手。見ていて元気になる子という視点から選ばれた。「日常に戻ろう」がテーマなので、自前の普段着で出演してもらったという。
「このCMが受け入れられるか不安でしたけれど、温かい反響をいただいて、ほっとしています」(鹿毛さん)
同CMは、CM総合研究所が毎月2回行っている好感度調査(5月前期)で全2822作品中、2位にはいった。
※女性セブン2011年6月2日号