福島県楢葉市で、ある1匹の雑種犬が救助された。その犬を救出したのは、被災地でペット救援活動にあたっているボランティアグループ『福島原発20キロ圏内犬猫救出プロジェクト』のリーダー・大網直子さん(神奈川県在住の専業主婦・44才)とカメラマンの太田康介さんら。3月31日に活動をスタートさせた同プロジェクトには、ジャーナリストの山路徹氏(49)も参加している。
5月上旬、大網さんらがとある家の前を通ったときのことだ。生け垣の切れ目から牛と鶏の姿を見つけ、太田さんは車を止めた。
家の周りを見ると、納屋の奥に1匹の雑種犬がいた。しっぽは垂れたまま微動だにせず、こちらをじっと見ていた。もとは白い長い毛並みだったはずが、全体的に薄茶色に汚れており、首の周りが特に汚れていた。
「よく見ると、ポタッポタッと首から血が垂れていました。汚れは血の乾いた跡でした。それで何としても保護しなければと思ったんですが、近づこうとすると、かすかに“ウ~”と低いうなり声をあげ、警戒しているのがわかりました」(大網さん)
なんとか保護するや、大網さんらは動物病院へ駆け込んだ。治療にあたった病院スタッフが振り返る。
「丁寧にはさみを入れて毛を処理していくと傷口が出てきました。うじがわき、溜まった膿がどろっと流れ出てきた。大きな穴が4か所、かまれた傷でした。尻尾も皮膚がぼこぼこになっているので毛刈りをしてみると、散々かまれていた。まるで集団リンチを受けたかのようでした。2~3日遅かったら手遅れになっていたでしょう」
それを聞いた大網さんは、苦しい表情を浮かべた。
「このワンちゃんを保護した家のすぐ近くに6匹の野犬を見たんです。もしかしたらあの6匹に襲われたのかもしれません…。でも、その犬たちも野犬化したくてなったわけじゃないのに…」(大網さん)
太田さんも声を詰まらせた。
「この状況で、鶏の死骸が1羽もないことには本当に驚いたんです。たぶん、あのワンちゃんが牛や鶏を野犬から守っていたんでしょう」
数日後、大網さんのもとへ、避難所などに貼っていた貼り紙を手がかりに、その犬の飼い主の男性から「うちの犬かもしれない」と連絡があった。そこで、その犬の名前がゴン太だとわかったという。
※女性セブン2011年6月2日号