史上最高額の被害となった東京・立川の6億円強盗事件は5月19日時点で犯人が捕まっていない。警備員が1人になる時間が狙われたことなどから、警視庁は「内部関与説との見方を強めている」(捜査関係者)が、それにしても被害に遭った日月警備保障は、なぜ6億円もの大金を保管しながら警備員を1人しか置いていなかったのか。中堅警備会社役員が語る。
「昨年の業界全体の売上高は3兆1000億円で、一昨年から約4000億円減少している。そうした中、2人勤務を1人勤務に、3交替制から2交替制にするなどして人件費抑制を図る会社が増えた。再雇用で雇った60代の社員を数時間の仮眠で24時間勤務させるところもあると聞く」
そうした待遇が内部犯行を招く懸念を指摘する声もある。国交省が定める公共工事入札の設計労務単価基準では、対象51業種中、警備員は最も安い(日給約8000円)。業界団体が約14万人の警備員を対象に行なった調査では、48歳平均で月給は約21万9000円だ。
今回、強盗に襲われて重傷を負った警備員の給与は、「公表していない」(日月警備保障の広報担当者)が、そうした危険と隣り合わせでは割の合わない仕事にも思える。
「正社員でさえ生活するのがギリギリという人も多く、平均勤続年数は5.4年と定着率が低い。そのため、犯罪グループが離職を考えている社員を狙って、金銭と引き替えに内部情報を教えるよう接触することがある。企業側も情報を漏洩したら告訴すると警告しているが、現実にそれを防ぐ有効な方法はない」(業界紙記者)
加えて、内部犯行が発覚しにくいのも警備業界の特徴だという。
「内部犯行が公になれば、金額の大小にかかわらず仕事が取れなくなる。そのために、会社としても事件をもみ消して発注元に弁償し、使途不明金として処理することは珍しくない」(前出の警備会社役員)
なお、日月警備保障は損害保険に入っていたとされるが、「営業所の警報装置を普段からオフにしていたなどの過失があるため、全額が支払われる可能性は低い」(大手損保会社の幹部)と見られている。
※週刊ポスト2011年6月3日号