5月21日、77歳で亡くなった俳優の長門裕之さん。亡くなった後のワイドショーではしきりと故・南田洋子さんとの関係を「おしどり夫婦」と表現されているが、その一方で浮気を暴露し、果てには「献身的に妻を介護した夫」とも評される。一体真の姿はどこにあったのか。プロインタビューアーの吉田豪氏が生前長門さんを取材した時に思ったことをここに再現する。(週刊ポスト2009年8月7日号より)
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先日、念願叶って、あの長門裕之(敬称略)を彼のマンションで取材することが出来た。タレント本コレクターのボクが選ぶ生涯ベストというべき名著『洋子へ』(1985年/データハウス)の著者であり、そしていまは認知症の妻・南田洋子を自宅で介護していることで知られる彼は、我々が到着すると「いや~、いま大変だったんだよ!」と、大人用おむつの入ったビニール袋片手に登場。
「待望してたうんちが出たんだよねえ。2日も3日も出ないと、やっぱりアンモニアの毒素が溜まっちゃうから。うんちが出たっていうことが、俺はホントに嬉しい」と語る長門裕之と、『洋子へ』の浮気自慢と同業者批判で大バッシングをされた長門裕之は全くイメージが重ならないが、もちろん同一人物である。
古くはマスコミに「おしどり夫婦」としてもてはやされ、『洋子へ』出版で「暴露本の著者」としてバッシングされ、いまは「介護に頑張る美談の人」として褒め称えられている彼の、どれが真実の姿なのだろうか?
ボクに言わせれば、その全てが間違いだったような気がしてならない。『われらガチョウ夫婦』(1978年/学習研究社)』という、夫婦の共著も出しているように、彼は昔から「ウチはおしどり夫婦なんかじゃない」と言い続け、その本でもさんざん浮気自慢を繰り返し、それでも動じない妻へのメッセージとして、かまってほしくて『洋子へ』を出版。
あの本がいわゆる暴露本とは桁違いの面白さなのはそのためであり、誰かを恨んで書いた感じがしないし、酒を飲んで話したのをまとめたこともあって、とにかくホントに楽しげだった。そして、いま彼が必死に介護をやっているのも、そんな伏線があってこそなのだ。
文/吉田豪