宮城県南三陸町旭ヶ丘地区では、4月10日以来、週に1回程度、水や支援物資などの配給場所となっている地区の集会場の前で、川柳大会を行なっている。
住民のほとんどは川柳作りが初めて。それでもめいめいがルーズリーフやメモ帳、新聞広告やカレンダーの裏など、手元にわずかに残った白い用紙に川柳を書き連ね、配給のある朝10時と午後4時に集会所に持ってくる。
それを柴田正廣区長が選者になって、住民の前で読み上げるのだ。ちなみに、選ばれた人は粗品がもらえるという。
『すっぴんで 外に出る日が 来るなんて』
『大津波 みんな流して バカヤロー』
これらの句を詠んだ須藤春香さんは句にある通りのすっぴん姿ながら、40代というその年齢よりはるかに若く見える。「もうすっかり慣れました」と笑いながら話すが、自宅を流され、避難所を転々とした後、今は知人宅に夫婦で居候の身だ。実母は津波で流され、遺体で発見されたという。
「住んでいた家を見に行きましたが、残っていたのは基礎だけ。主人の実家も家ごと流されましたから何も残っていません」(須藤さん)
バカヤローのひと言にこめられた、思いのたけ。でも、決して後ろ向きではない。
「川柳なんて作ったこともなかったんですが、居候先の知人一家とみんなで考えて投句しました。辛い現実を詠んだ川柳も考えますが、クスッと笑えるものをと考えている時は一体感があって楽しかった」(須藤さん)
川柳を通じて生まれる笑いが、苦境に負けないエネルギー源になっているようだ。同じく女性心理を詠んだこんな句もあった。
『ノーメイク テレビにうつり 気づかれず』
同地区に電気が復旧したのは4月半ばのこと。その喜びをユーモアたっぷりに詠んだ句もある。
『電気つき 亭主おどろく ノーメイク』
※週刊ポスト2011年6月3日号