小沢一郎・元民主党代表と鳩山由紀夫・前首相は大型連休中から、「倒閣」の姿勢を鮮明にしている。
小沢氏は5月6日に原発からの汚染水放出で風評被害を受けた千葉県の外房の漁港で釣りをし、「政府の対応はこのままではいけない、という声を強くしていく」と語り、同じ日に鳩山氏も訪問先の中国で、「今の政府は、『国民の命を守りたい』という政権交代当初の考え方をないがしろにしている」と批判した。
それを機に小沢支持派の一部が、内閣不信任案への同調を求める署名活動に走り出した。小沢氏は支持派議員との会合で、「首相は不信任案を可決させることでしか辞めさせられない」と語ったとされ、それを周囲が「署名集め指令」と受け取ったのである。
小沢氏の真意は、倒閣のための多数派工作なのか。今月に入ってから小沢氏と何度も話をしたという平野貞夫・元参院議員は「そうではない」という。
「小沢さんは、側近議員たちが党内で両院議員総会の招集を要求すると騒いだから、“それでは総理大臣をクビにはできない。この総理に国を任せられないと判断した時には、国会で不信任しなければ倒せない”と議会政治の常道を説いた。それは不信任の数を集めろという号令ではない」
鳩山氏が信頼する最側近もこう見通しを語った。
「署名が菅降ろしの動きだと考えると本筋を見誤る。党内の全く違うところから動きが出てくるだろう」
事実、民主党では原口一博、樽床伸二、長妻昭、小沢鋭仁の各氏ら、閣僚や党の要職経験を持つ議員が、菅政権の震災復興政策や原発対応に異議を唱え始めた。
前総務相の原口氏は原発事故発生直後から、「最悪の事態になる」と専門家からの助言を菅首相に伝えていたが、対応が取られないことに業を煮やし、「高濃度の放射性物質を流さないためにどうすべきか。決断ができないのなら総退陣すべきだ」と通告し、自らは佐賀県連の代表を辞任した。
樽床氏も統一地方選惨敗の責任をとって大阪府連代表を辞任すると、5月17日には自民党と合同で「国難対処のために行動する『民主・自民』中堅若手議員連合」(民自連)を旗揚げし、民主は中間派など87人、自民22人が参加。政府に会期の大幅延長を要求した。
長妻前厚労相は、仙谷由人・官房副長官の「社会保障と税の抜本改革調査会」に対抗して、「あるべき社会保障と財源を考える会」(約50人)を立ち上げた。
本人は、「政府の議論を補完するため」と歯切れが悪いが、参加議員は、「民主党の本来の議論は社会保障改革の財源として税のあり方を考えるはずなのに、震災復興や財政再建のための増税にすり替わっていくのは認められない」と“反仙谷”を鮮明にしている。
増税問題では、党税制改正プロジェクトチーム座長の小沢前環境相も、渡辺喜美・みんなの党代表と共同記者会見を開き、「震災を口実とした増税に反対する」と宣言した。
こうした動きの共通項は、「菅降ろし」を前面には出さず、「国難に政治はかくあるべし」という政策を掲げ、菅首相に改めるように迫っていることにある。
※週刊ポスト2011年6月3日号