全国に51か所ある「都道府県がん診療連携拠点病院」のひとつ、神奈川県立がんセンターで行われたある手術の模様を録音したテープの提供を本誌は受けた。一般人が知ることのない“白い巨塔”の深奥部は、実は一般社会よりずっと俗な恐ろしい世界だった。
手術が行なわれたのは2009年後半。全身麻酔を受けて手術に臨んだのは、運動器系(骨や関節など)に腫瘍が見つかった入院患者だった。手術室には執刀医を務める骨軟部腫瘍外科医長のA医師と助手を務める部下のB医師、2人の上司にあたる同科部長のC医師、そして数名の看護師と麻酔科医が詰め、「別の科の医師も何名か出入りしていた」(テープを提供した同センター関係者)という。
以下は、録音内容の一部である。全身麻酔機が発する「ピー、ピー」という電子音が鳴る中、A医師がB医師に怒声を発する。
A「やめてくれるかッ!!」
B「(メスが)皮膚に当たりそうなので……」
A「当たりそうだけど、俺はペアン(止血鉗子)は当ててないから。黙ってて、ホントに」
B「じゃあ、ハサミを」
A「やめてくれって、いってるだろう」
B「少しは参加させてください」
A「嫌だよ」
B「さすがに(A先生)一人じゃ厳しいと思います」
A「ダメだ。(僕が)一人でやっちゃうよ」
A医師はB医師のサポートを拒否して、単独で処置を進めているようだ。数分後、A氏の慌て声が聞こえる。
「わぁ、わぁ、わぁ。どういうふうにしようかな。切ってもしょうがないけど……ペンチちょうだい。あっ、神経かな。最後にしよう」
音声だけではわからないが、アクシデントがあったのだろうか。約10分後には、C医師がこう口にした。
「一人でオペって、いい練習になるんだよね。一人で麻酔をかけて、一人でオペをやる。これからは医者をどんどん減らしてCO2を削減する時代じゃないかな」
さらに、B医師が「(A先生のやり方には)傷ついています」と抗議の意思を示すと、A医師は声を荒らげた。
「じゃあ、ここを去ればいいじゃない。そのまま行こうぜ、喧嘩したままで。君に何かヘルプってのは、もう絶対いわないから」
録音にはそんなやり取りが残されていた。A医師は最後までB医師のサポートを拒んだと思われ、C医師がとりなす様子もなかった。全身麻酔を受けていた患者はこの模様をもちろん知らない。が、もし聞こえていたとしたら、命を預けた手術の真っ最中の修羅場に青ざめたことだろう。
当事者のA、B両医師に直撃したところ、A医師は、「尋常ではない問題なので、センターに聞いてほしい。C先生も同じだと思う」と取材を拒否。現在は別の病院で働いているB医師は、「(テープの)声は、確かに私とA先生、C先生です」と認めた。だが、「それ以上は医師として話すべきことではない」と口をつぐんだ。
※週刊ポスト2011年6月3日号