「世界一の歯車へ」を標榜するUst番組「ザ・サラリーマン」。その構成を務めるDJサエキング氏には、全国のサラリーマンから「ザ・サラリーマン道」ともいえそうな“サラリーマンを生き抜く術”“サラリーマンの様式美”に関する目撃談・体験記が続々と寄せられる。今回は鉄鋼系商社に勤めるMさん(34歳)から。
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随分前の入社式で「ナンバー1よりオンリー1めざします!」とスピーチした新入社員がいたんですよ。私だって一瞬は「ふむふむ、こらからは付加価値の時代か…」なんて思ったものですが、すぐに冷静に戻りました。
ふざけんなあああ! バカ! お前みたい奴がナンバー1で不要なヤツなんだよ! 将来オンリー1になったお前が辞めたら、引継ぎどうすんだよっ(そのツッコミも先輩として情けないですけどね…)。サラリーマンっつーのは、代替要員がいてナンボだと私は思うわけですね。何せ私がそういう人材扱いされていて、会議なんて出ていても喋ることはほとんどなく、いつも「まっ、キミも一応聞いといてね」と上司から言われるだけなんですからね。
さて、過去に話題となったそんな「ナンバー1・オンリー1論争」だが、この絶対論を覆す人物がMさんの社内にはいます。経営企画室次長のA氏(51歳)だ。
51歳にして本社次長の席は決して悪くない。いや、むしろいい方だ。だが彼は際立って能力や実績があるわけでもない。野心や野望もない。そんな彼が今のポジションを得ているには秘密がある。そう徹底した「ナンバー1よりナンバー2戦略」なのだ。
その戦略は日常の至る所で散見することができる。Mさんが語る。「A氏は会議では決して先陣を切りません。天気を見ているのです。自分に発言を振られた時でも、多数派の意見に追随するのは無論、少数派を敵に回すようなまねは決してしないのです。なぜでしょうか?」
トップの一言で一気に入れ替わる時があるからだ。しかも、その気の回し方が絶妙なのだ。例えば販売戦略をAかBで議論している時でも「長期的にみたらA、短期的にみたらB」や「総論ではA、各論ではB」など、トップの発言があるまでニュートラルな立居地を決して崩さず、発言後、自分が着陸する空港の安全を上空から確認、そして一気に滑走路に滑り込む。体制が「Aですね…」となりかけたところで、「そうだね。やっぱ長期的視点に立ったらその方がいいだろうね」と空気を読んだ上で、あたかも自分が結論を出したかのように振る舞うのだ。
この様は2009年の「ハドソン川の奇跡」で「なんという適切な判断力!」と世界から絶賛されたあのチェスリー・サレンバーガー機長も参考にしたのではないか? とA氏の周囲では囁かれているほどだ。
このA氏だが、前出の通り敵を作らず、だが「キチンと意見は言った」「どちらの意見も尊重するバランスの取れた人物」風に見せる能力は彼を有能な次長として今でも君臨させている。そして驚くことにA氏が参考にしたいのは東京電力のツートップなのだという。
最後に、A氏がMさんに語った「世渡り術」を紹介しよう。
「私にとっての理想は、かつての読売ジャイアンツの『藤田監督』と『王助監督』の関係です。『助監督』ってなんだよ! でも、その間に王さんは藤田さんから育てていただき、後に名監督になったわけですね。私もNo.2としてぬくぬくと過ごした後にはばたきたいと思っております」