外科医たちは手術中に私語や会話が飛び交うことを認めている。地方の総合病院の医師もそのひとりだ。
「手術中は冗談のひとつも出るほうが、過緊張にならずにいいんです。押し黙ったままというのは、不慣れで要領を得てない証拠。私語のない手術はかえってミスが多発します」
医大非常勤講師は、緊張と緩和のリズムを重視する。
「がん腫瘍摘出で血管や神経を傷つけやすいときは、黙って集中します。そこが終わると一転してリラックス。冗談もいうし、笑顔も出る。手術の最終過程、最後の患部の縫合なんかは鼻歌まじりのことも。長時間にわたる手術では、こうして緩急をつけないと医者の心身がもちません」
グルメや時事ネタ、教授の悪口、テレビドラマ……会話の中身は「医事系3割で残りは他愛のないこと」と、医師たちは口を揃える。しかし、時には眉をひそめたくなるような言葉が、手術室に響くこともある――。
「クソババア、何歳まで生き延びるつもりなんだ!」
※週刊ポスト2011年6月3日号