毎時2000ミリシーベルトという高い放射線、数万tにも及ぶ大量の高濃度汚染水、行く手を阻む瓦礫の山……福島第一原発では、復旧作業にあたる作業員たちに、今も次々と困難が降りかかっている。被害を拡大させた東電の責任が追及される一方で、国民の安全を守れるのは彼ら現場の技術者・作業員たちしかいない。原子力工学の専門家・石川迪夫氏が、その苛酷な現場とある懸念について語る。
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気懸かりなのは、電源が回復した4月以降の作業にスピード感が欠けることだ。現場と東電本部や官邸などとの間でどの程度の意思疎通が図られているかは不明だが、一時、全号機で実施しようとした「水棺」など、実効性の点から無駄と思えるような作業も少なくない。余計な作業が加われば、その分、現場で働く作業員らの被曝量も多くなってしまう。
本来、早急に取り組むべき課題は、東京ではなく現地に対策本部を設けて、迅速な管理を徹底させることだ。そして現場の整理整頓と並行する形で、循環型の冷却システムを再構築し、炉心の強制冷却を行なうことである。1号機で「炉心溶融」(核燃料が溶融し圧力容器下部へと落ちていく状態)が起きていた事実が判明したが、おそらく2号機・3号機の炉心内部でも、同じことが起こっていると見るのが妥当であろう。
現在、採られている水の“掛け流し”による冷却法では、燃料の発生熱を除去するのみで、溶融した核燃料を冷却凝固させることができない。炉心溶融のみならず、圧力容器底部に数センチ程度の損傷(穴)があると見られているから、なおさら現行の冷却法では、いたずらに高濃度の放射性物質に汚染された水を増やし、外部へと漏出させているだけとも言える。
もはや、“1日の遅滞は100日の困難を招く”と肝に銘じるべき時だ。綻びの目立つ「工程表」通りに無理に作業を進めようとすれば、現場をより苛酷な環境へと追いやることになる。
※SAPIO2011年6月15日号