5月5日、ロシアを訪問した伴野豊外務副大臣はボロダフキン外務次官らと会談し、両国間のエネルギー協力拡大のため、次官級協議を立ち上げることを決定した。天然ガス大国・ロシアからのガス調達を増やす狙いだ。だが、それはロシアが東京電力をはじめとする日本のエネルギー企業に食指を伸ばすことに他ならない。2007年に『ガスプロムが東電を買収する日』(ビジネス社刊)を上梓、警鐘を鳴らした大阪商業大学教授の中津孝司氏がその危険性を指摘する。
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震災直後、ロシア政府は液化天然ガス(LNG)15万tを日本に緊急提供すると発表した。だが、それをありがたく感謝するのはあまりにお人好しだ。そこには日本に恩を着せようという底意が見える。当たり前だが、ロシアは自国の国益に沿って動いている。
日本国内の多くの原発が停止したままであると、当面は火力発電頼りになる。燃料は石炭か石油か天然ガスだ。中でも天然ガスは前二者に比べ、地球温暖化ガスの排出量が少なく、代替エネルギーの最有力候補である。さらにLNGは液化時に不純物が除かれ、よりクリーンとなる。その意味でも原発の次善策はLNGしか考えられない。
ロシアはガス15万tで恩を売り、結局日本の企業にガス田開発にもっと協力させようというのが本音だ。今、ウラジオストクにサハリン2クラス、年間1000万tのLNGを供給できるプラントを作ろうとしている。そしてここで生産されるLNGが日本に輸出されることになる。一見、安定的にエネルギーが確保でき、双方の利益となるように思える。だが、ここに陥穽がある。
ロシアからの天然ガス供給が当たり前になったある日、突然供給しないといわれたら、どうするか? これは過去にロシアが欧州に対してやったことだ。2006年、ロシア最大の天然ガスの生産・供給を行なう企業、ガスプロムはガス料金値上げを巡って対立したウクライナへの天然ガス供給を一時停止。
パイプラインを通じてウクライナから先のEU各国に天然ガスが届きにくくなり、大混乱に陥った。このようなロシアの資源外交に日本も晒されることになる。その延長線上に日本のエネルギー企業がロシア資本に買収、支配される可能性があるのだ。
※SAPIO2011年6月15日号