ビンラディン殺害後、テロの脅威はむしろ増幅するという指摘がある。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は、ここ数年、アルカイダに代わるテロ組織が台頭していると解説する。
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米当局がいまもっとも警戒しているのが、「パキスタン・タリバン運動(TTP)」だ。パキスタン北西部部族地域の南ワジリスタンを本拠とし、アルカイダおよびタリバンと非常に近い関係にある組織である。
TTPはビンラディン死亡直後の5月2日に、いち早くアメリカへの報復宣言を行なった。
そして、13日にはさっそく、パキスタン北西部のチャルサダのパキスタン治安部隊訓練学校で自爆テロを実行し、訓練生80人以上を殺害している。TTPは犯行声明で、この攻撃がビンラディン殺害に対する最初の報復であるとし、さらなるテロも言明している。
TTPは、9.11テロ後にタリバンの対米戦に参加したパキスタン北西部出身者を中核とし、同エリアへのパキスタン軍侵攻に抵抗した部族民兵を吸収して2007年に結成された。主にパキスタン国内を活動エリアとしているが、近年は国際的なネットワークを広げつつあり、そこを米当局は強く警戒している。
それというのも、従来はアルカイダが同地域に軍事キャンプを設置し、海外の自爆テロ志願者を受け入れて訓練していたが、2000年代後半以降、アルカイダのキャンプは閉鎖され、自爆テロ志願者はアルカイダとのコンタクトが難しくなった。
そのため近年では、世界各地からの自爆テロ志願者はTTPの軍事キャンプで訓練を受けているケースが非常に増えている。
つまり、アルカイダに代わって、パキスタンのイスラム過激派が世界のテロ・ネットワークのセンターになったのだ。こうしたことから、本来は土着の武装組織だったTTPが国際的なネットワークを広げていて、その存在感が飛躍的にアップしている状況となっている。
そもそもパキスタンのイスラム過激派には、同国東部を地盤とするカシミール系の勢力と、北西部を地盤とする勢力の2派があった。このうち、カシミール系組織の代表格が「ラシュカレ・トイバ(正しい軍隊)」だ。同組織はパキスタン軍の情報機関「統合情報局(ISI)」の強い監督下にあったが、2008年にインドのムンバイで大規模な無差別テロを起こし、169人を殺害したことが大きな外交問題になってから、パキスタン当局の圧力で現在は活動を抑えられている。
TTPは以前から、タリバンの共闘勢力としてアメリカ当局の攻撃目標だった。2009年には当時の司令官がアフガンから越境したCIA無人機によって爆殺されたが、それ以降、対米テロをさらに激化させた。
一昨年12月には、アフガン東部のCIA拠点「チャップマン基地」で自爆テロを実行し、CIA要員ら9人を殺害した。これはヨルダン人の自爆志願者を使ったテロ作戦だった。
昨年9月、アメリカ政府はTTPを国際テロ組織に指定した。ハキムッラー・メフスード司令官を特別指定国際テロリスト(SDGT)に指定し、500万ドルの懸賞金をかけた。ちなみに、パキスタン政府も60万ドルの懸賞金でメフスードの行方を追っている。
ビンラディン亡き今、これからはTTPの動向に要注意といえそうだ。
※SAPIO2011年6月15日号