震災後、節約志向を強める消費者を取り込もうと、牛丼チェーン3社の値下げ競争が再燃している。キャンペーン中店舗(いずれも5月中に終了)では牛丼並盛りを松屋が「320円→240円」、すき家が「280円→250円」に値下げして客足を回復させた。
だが、吉野家は「380円→270円」と100円以上の値下げを行なったが、起爆剤にはならなかった。
創業110年の老舗がまさかの一人負け。そのじり貧状態を打開するために満を持して発表されたのが「次世代型牛丼」である。
肉を5グラム増量、ご飯を10グラム減量――ただし、具材の配分のほかには大きな変更はない。5月17日より本格的に導入されたというが、実際、吉野家で牛丼を食べたお客に話を聞いても、
「えっ、新しい牛丼ってこれのことなの!?」「以前よりスッキリした……ような気がする」と要領を得ない。そして二言目には「どこが次世代なの?」という声である。 疑問に答えてくれたのは食品流通に詳しいジャーナリストの河岸宏和氏である。
「吉野家が具材の分量を変えるのは60年ぶりのこと。ズバリ注目はご飯の量です。吉野家の牛丼は、築地の魚河岸で働く人たちに向けて作られたもの。彼ら肉体労働者は味より量を求め、ご飯の増量こそ最良のサービスだった。この配分を変えるということは、メイン顧客をオフィス街のホワイトカラーやOLに設定し直すということです。
牛丼をファストフードとして食べる現代人にとっては、ご飯が多く、カロリーが高すぎるということでしょう。見た目や味はほとんど変わっていませんが、この牛丼は、吉野家の新コンセプトを示しています」
減ったご飯の量は10グラムでカレースプーン1杯分程度。匙一杯分の変化が、吉野家の歴史的転換を示しているという。
※週刊ポスト2011年6月10日号