未曾有の大災害、本邦初のメルトダウン(炉心溶融)、大規模停電と経済急失速の危機、そしてテロの恐怖かつて経験したことのない国難にある今ほど、人々の不安を払拭する優秀なリーダーの登場が待ち望まれている時はない。大前研一氏が有事のリーダー像を問う。
* * *
優れたリーダーは、自分より能力が高い人を集めてまとめ上げ、その人たちの力を目一杯発揮させて成果を出す。一方、ダメなリーダーは、自分より能力が低い人や自分が御しやすい人ばかり集めてくるから、往々にして方向性を間違える。菅直人首相の場合は後者だ。それは、震災復興の名の下に寄せ集められた参与、数多くの会議、諮問機関などのお粗末で意味不明な顔ぶれが如実に物語っている。
だが、東京電力・福島第一原子力発電所の事故は、未だに現在進行形の非常に大きな危機であり、日本のリーダーが対応を誤ったら、世界中に多大な迷惑をかけてしまう。
迷惑のかけ方は2つある。
1つは、放射性物質の飛散や高濃度の放射能汚染水の海洋放出などによる物理的な迷惑、そしてもう1つは原子力の頓挫による政治的な迷惑だ。もし今回の事故で日本の原子力政策が破綻したら、すでに欧米でその動きが拡大しているように、原子力をクリーンエネルギーの象徴として推進している国々が原子力政策の中止や中断、大幅な見直しを余儀なくされる。
では、この問題に、日本はどう対応すべきなのか? 原発被害は、ことほどさようにすべての国にとって内政問題だから、それぞれの国の人たちに、それぞれの国の言葉で、日本が発信する情報を伝えてもらうしかない。なぜなら、枝野幸男官房長官や経済産業省原子力安全・保安院などが日本の国民向けに発表した内容を英語に翻訳して配布しても、それだけでは正しい情報は伝わらないからである。
したがって日本政府がやるべきは、アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、インド、中国、台湾、韓国などの優秀な専門家たちによる最強チームを作り、日本発の正確な情報を発信してもらうことである。
ただし、そういう多国籍チームを動かしていくには、こちら側に相当なリーダーシップが要求される。実際私はこの方法を民主党の人たちに何度も提言しているが、多国籍チームをまとめてコントロールしていく能力がないため、腰が引けているのが実情だ。その役割を、IAEA(国際原子力機関)に担ってもらうという手もあるが(現在の事務局長は外務省出身の天野之弥氏)、そんな調整能力もない。
要するに、日本のリーダーには世界と対話するコミュニケーション能力がないのである。
※SAPIO2011年6月15日号