東日本大震災による原発問題によって、電力不足が問題視される中、充電のできない電気自動車(EV)など無用の長物になるのではないのか? といった声が聞こえはじめた。
しかし、こうした現状においても電力はガソリンにとって代わるもっとも有力な代替エネルギーだとの説もある。いま電力インフラをもっと活用すること、そしてEVやハイブリッドカーが持つ給電機能や蓄電機能に注目が集まっている。
震災直後、被災地では深刻なガソリン供給不足が発生。そこで電力供給設備さえあれば稼働できるEVのニーズが高まっていた。
実は電力はもっとも早く復旧できたインフラであった。日産自動車は支援車両としてEVのリーフを65台提供。地域医療を担当するドクターの移動車両などとして活躍した。また同様に三菱自動車のi—MiEVや電動バイクや電動アシスト自転車なども提供され、人命救助に役立てられていた。自動車ジャーナリストの西川淳氏は語る。
「EVは原発への依存を前提にしなければ普及しないという、短絡的な発想は捨てたほうがいい。現在のEVはそもそも夜間電力ありきの乗り物。『夜間電力=原子力』というイメージが蔓延しているようですが、実際に夜間電力を生み出しているのは、原発に限ったものではなく、火力発電なども同様です。
そして、現状では作り出した電力を蓄電することができないため、余った電力は捨てられている。つまり使える夜間電力は、まだまだあるというわけです」
前述の日産リーフの場合、携帯電話を使ったリモコン操作で昼の電力ピークを避けて、夜間にタイマー充電させる機能を持っており、捨てられている夜間電力の有効活用が可能だ。
火力、水力、風力、太陽光、地熱など原子力以外の発電方法はいくつもある。原子力がなくとも電気を作ることはできるし、どの方法で作っても電気なのだ。問題は現状ではダムの水のように大きく蓄える技術がないこと。
そうした中、迫りくる夏の電力不足への対策として、家庭向けの蓄電池が商品化されはじめている。しかし、容量1kWhで約90万円、2.5kWhで約190万円とまだまだ高価。これに対し例えば、日産リーフのバッテリー容量は24kWh(一般家庭の約2.5日分)で価格は376万円、国の補助金を使えば約300万円におさまる。これも蓄電池のひとつとして使えるとするならば、そのコストパフォーマンスはかなり高いといえよう。
「すでにEVを家庭用のバックアップ電源として、さらには市区町村など自治体の電力貯蔵装置の1つとして使うスマートホームコンセプトなどスマートグリッド構想の研究開発も進められています。
メリットは他にもいろいろあるわけで、今後はさらにEVの可能性を広げることを考えるべきでしょう」(前出・西川氏)
昨年度販売されたリーフは約4,500台。これを全て電力供給源として使うと仮定すれば、1万1千世帯以上の1日分の電力をカバーできる計算だ。すでにリーフを電力供給源として使えるデバイスの開発は進んでおり、早ければ年内にも発表されるという話も聞く。
平均すると1日のうちクルマが移動手段として使われているのはわずか2時間程度といわれている。EV車なら1日平均2時間の「移動手段としての機能」提供だけでなく、いざという時の「蓄電池としての機能」も――というのは、電力供給に不安を抱えている中で大きなオプションと感じられるだろう。
もはや従来の自動車の枠にとらわれない、社会インフラの1つとして、EVは大きな可能性を秘めていると言えそうだ。