肉を5グラム増やし、ご飯を10グラム減らした吉野家の「次世代牛丼」が話題となったが、実は吉野家では昨年12月からプロジェクトチームが結成され、次世代型牛丼に関する戦略が水面下で進められていたという。
「調理から提供に至る全108工程で修正を進めてきました。具材の分量だけでなく、肉の赤身比率や玉ねぎスライスの長さや幅を見直し、肉の甘みを最大限引き出せるようにしたんです」(吉野家関係者)
こうしたチームを発足させたのも、吉野家が値下げ合戦に限界を感じつつあったからだ。
経済部記者がいう。
「牛丼の価格競争は、一度成功しても他店の方が安くなればすぐに客足は離れる。最低、年4~5回は集中的にやって客を集めないと売り上げを維持できない。吉野家は、その場凌ぎの値下げを繰り返すうちに味や盛り付けが雑になり、いつしか本来の強みを見失っていた。長期的な展望を持つ必要があったのでしょう」
また、取材を進めると別の一面も見えてきた。食品流通に詳しいジャーナリストの河岸宏和氏がいう。
「牛丼各社は積極的な出店で売り上げを拡大すると同時に、大幅なコスト削減を断行して利益を伸ばしてきた。ただ、最終的に削られるのは人件費です。ユッケの食中毒事件でもわかるように、適切な人員配備ができていないと致命的な事故が起こりかねない。牛丼は値下げ競争の代名詞のようになっていますが、それだけをやっている以上は将来性がありません」
実際に深夜スタッフを減らしたことにより、ある牛丼チェーンでは強盗や食い逃げが続発しているという。行き過ぎたコストカットが、想定外の事故を引き起こした例は枚挙に暇がない。
吉野家ホールディングスの広報部はこう説明する。
「肉を5グラム増やしたことによって、コストはあがっている。でも、他社さんと価格競争しているわけじゃない。その分、カロリーが3キロ減り、女性の方々に召し上がって頂ける商品になったと思います。我々は時代の食にあう牛丼を追い求めたいと思っています」
※週刊ポスト2011年6月10日号