五木寛之の『青春の門』の舞台となった福岡県筑豊地方は、気性の荒い人間が多く集まる地域として知られている。「黒ダイヤ」と呼ばれる石炭を採掘する炭鉱労働者たちは、みな一様に辛い労働を酒や博打で癒していたが、そんな彼らが集まれば、時には諍いも起きてしまう。過去の事件簿を紹介しよう。
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「喧嘩、博打、酒が花」といわれ、気の荒い性格で知られる筑豊の「川筋気質」。とはいえ、この事件はあまりに凄惨だった。
昭和21年4月16日、福岡県遠賀郡中間町(現・中間市)で一家6人の変死体が発見された。尖ったもので頭を貫かれ、血まみれになった8畳間で枕をきれいに並べていたのだ。被害者は炭鉱労働者の独身寮の元寮長とその家族で、現場からは現金295円と衣類が奪われていた。
警察は犯行翌日の14日に、盗まれた衣類を質屋へ持ち込んでいた辻岡留造(22)を逮捕。
寮に住んでいた辻岡は被害者との博打で大負けし、借金の返済延期を頼んだが断わられた。そのことに腹を立てて夜に被害者宅へ押し入り、就寝中の被害者を採掘で使うツルハシでメッタ打ちにしたのだった。その後、物音に気づいて騒いだ子供や母親も次々と殺害。辻岡には即刻、死刑判決が下った。
※週刊ポスト2011年6月10日号