死者約3000人という、未曾有のテロ攻撃をアメリカに仕掛けたウサマ・ビンラディンが、ついに潜伏先のパキスタンで殺害された。しかし、決して手放しで喜べる状況ではない、とジャーナリストの落合信彦氏は言う。
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パキスタンの政府に事前通告がなかったことを問題視する声があるが、もし事前に作戦の存在を知らせたりしていたら、ビンラディンは楽々奇襲から逃げおおせていたことだろう。パキスタン政府や同国情報機関ISI(統合情報局)にとっては、ビンラディンは生きたままのほうが好都合だった。ビンラディンが生きていれば、アメリカはアルカイダ掃討作戦の最前線基地となるパキスタンに物心両面での援助を続けるからだ。
今年1月に一人のCIAエージェントがパキスタン国内で発砲事件を起こし、現地当局によって逮捕・起訴された。逮捕された男がCIAであることをリークしたのはISIだったとされている。この事件一つをとっても、ビンラディン殺害を狙うCIAとISIが抜き差しならない関係であることがよくわかる。アメリカが作戦を通告しなかったのは、しごくまっとうな判断だったと言えよう。
とはいえ、決して手放しで喜べる状況ではない。問題は、作戦「完了後」のアメリカ政府の対応にある。今のままでは、折角成功した作戦の成果が水泡に帰すばかりか、状況をさらに悪化させてしまう可能性すらある。
オバマやホワイトハウス報道官のジェイ・カーニーは、殺害成功後の「説明」に躍起となっている。パキスタンへの主権侵害ではないかという批判や、人権問題として取り上げる国連への弁明に奔走させられている。結果、ビンラディンの武装の有無など、発表は二転三転した。正しいことを行なって成功したのに、なぜ弁解をせねばならないのか理解に苦しむ。口を閉めていればいいだけの話ではないか。
本来、今回のケースに釈明の必要などない。一人のサイコパスが消えただけなのだ。オバマ政権は作戦には成功したが、事後処理には失敗したと断ぜざるを得ない。さすがに国防長官のゲーツが「作戦内容を明かし過ぎだ」と批判したが、遅きに失している。
※SAPIO2011年6月15日号