「想定外」の津波により発生した福島第一原発の事故は日本にテロ攻撃を目論む者たちに、いかに少ないコストで多大な効果を引き出せるかを図らずも示してしまった。津波をテロに置き換えた場合、警備の内実は実に心許ない。ジャーナリスト、田上順唯氏がレポートする。
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「東日本のある原発では近年までゲートの警備も徹底されず、入構証さえ持っていればほとんどの『協力企業』の日雇い労働者もフリーパスで施設内に入ることができた。
そのような状況だから情報収集を目的とする補助工作員と目される人物が入り込んでいたこともあった。反対運動が過激だった時代には、原発の稼働寸前に金網が破られている。駆けつけると近所の住民が敷地内でキノコを採っていた。信じられない光景だった」
長年、原発警備にあたっていた県警捜査員はため息をつく。この証言を補足するのは「警察と犬猿の仲」だった活動家の男性だ。
「抗議行動の際、正門前から抗議のため原発内に入ろうとしたが警備に阻まれた。せっかく遠くから来たのだからと、ダメ元で裏に回ったところ通用口が開いていたので、敷地内に入って抗議した」(元学生運動家)というように、かつての原発の警備態勢は「まったくの『ザル』だった」と両者は口を揃えるのだ。
長く「牧歌的」でさえあった原発警備を変えたのは2001年に発生したアメリカ同時多発テロだ。その後、監視カメラや侵入者警戒システムも完備され、警備にあたる警察官も「機関けん銃」と呼ばれるサブマシンガンを持った特殊訓練を経験した警察官が配置されるようになった。
「万全の警備態勢」(東電関係者)のように見えたが、3月31日、福島第二原発に抗議の街宣車がゲートを突破して侵入し、敷地内を走り回る事件が発生するなど、問題点は残る。
※SAPIO2011年6月15日号