大新聞・テレビは、菅内閣の不信任決議案をめぐる今回の政変を「被災地無視の政治抗争」と報じたが、では、菅政権のままなら被災地は救われるのか。
本誌がこれまで報じてきたように、政府は原発事故の情報を隠匿することで「安全デマ」をバラ撒き、多くの住民に無用の被曝をさせてきた。農作物や漁業被害の補償金の支払いも遅れて農家や漁師は生活苦に直面している。
菅直人首相が「5月までに3万戸を建てる」と約束した仮設住宅は、まだできていない。
それなのに菅首相は、政権を延命させるために復興予算(第2次補正)の編成を先送りしようとした。この政権が続いても、将来に希望が見いだせないことは被災者こそが痛切に感じている。
小沢一郎・元民主党代表は、5月27日、米紙『ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)』のインタビューで、菅政権をこう厳しく断罪した。
「福島だけではない。このままでは、汚染はどんどん広がるだろう。だから、不安、不満がどんどん高まってきている。もうそこには住めないのだから。日本の領土はあの分減ってしまった」
国民がそこに住めなくなったことは領土が失われたに等しい――とは、いかにも保守政治家らしい表現だが、さらにこう続けた。
「危機の時だから、それにふさわしい人を選び、ふさわしい政権を作るのだ」
では、小沢氏は「ふさわしい人」を誰と想定しているのだろうか。同氏と長く行動を共にしてきた平野貞夫・元参院議員はこう読む。
「不信任案が可決されていれば、提出した野党第一党の谷垣総裁を首班として、不信任案に賛成した民主党議員が新党をつくり、公明党など各党派とともに連立を組むのが憲政の常道だった。
だが、菅首相の辞任が決まったために、民主党は代表選を行ない、次の総理を決めることになる。それでも迅速な復興と原発事故対応を進めるために、小沢氏は自民党との連立の約束は守るだろう」
その展開も倒閣を目指して5月中旬に開かれた小沢氏と森喜朗・元首相の秘密会談では折り込み済みだったようだ。森氏の側近議員は、こんなやりとりがあったと明かす。
「小沢氏は、『首相は谷垣さんでいくのが常道』と申し出たが、森さんは『こだわらない』と答えている。連立を安定させるためには、衆院で300議席以上持つ民主党の多数が協力する態勢が必要になる。そのためなら、民主党から新首相を出す選択も考えられるという判断だ」
1993年、小沢氏はいち早く日本新党代表だった細川護熙氏と面会し、「あなたが総理をやればいい」と“首班指名”した。
今回、小沢氏は信頼する側近との会話で、こんな言葉を漏らしたという。
「どんな手を使っても、どれだけカネがかかっても真っ先に原発問題を収束させることが、今の政治に求められる最大のリーダーシップだ。それをしっかりやる覚悟さえあれば、今は経験や経歴はどうでもいい。例えば若い原口君でも総理をやれる」
名前があがった原口一博氏は、不信任案が提出される前日の6月1日、議員約80人の勉強会「日本維新の会」を満を持して立ち上げ、民主党代議士会後には、「求められれば逃げない」と、事実上の代表選出馬を宣言した。
実は、勉強会旗揚げの日に、森元首相に近い伊吹文明・元自民党幹事長と密かに会談していたことを本誌は掴んだ。
同席した元自民党参院議員会長の村上正邦氏が明かす。
「伊吹さんが原口さんに会いたいというからセットした。基本的に伊吹さんが政局の質問をして、原口さんが自分の考えを語っていた。『党を割るのか』という質問には、『政権交代したのに、一朝にして自民党に政権を渡すことは望まない』といっていた」
自民党側も独自に、民自連立の「総理候補」の値踏みをしていたのか。
※週刊ポスト2011年6月17日号