この夏の日本経済は、企業の節電によって大打撃を受けると予想されている。
日本経団連の集計によれば、大企業の8割が今夏に昨年比25%減の節電をする計画だ。製造業では、工場のラインが止まるようになり、レストランやスーパーなどは、営業時間を短縮するようになるだろう。
仕事が減れば労働人口も減り、労働時間も減る。工場の期間工を中心に人員は減らされ、勤務時間が短くなれば給料は下がる。第一生命経済研究所主席エコノミストの永濱利廣さんはこう試算する。
「GDP(国内総生産)は、3.1兆円減り、11万6000人分の雇用が失われるでしょう。景気の停滞は日本全国に及び、サラリーマンの給料は平均で年間1万4000円減ることになります」
原発問題が解消しない限り、電力不足の問題は今夏以降も続く。電力不足、節電、不況と、負のスパイラルは避けられないのだろうか。経済停滞を避けるカギになるのが、実は“家庭による節電”なのだと、永濱さんは指摘する。
「家庭の節電は経済にマイナスの影響を与えるどころかプラスに働きます。というのも家庭が電気を削った分、企業は電気を使えるようになりますから、製造ラインを動かせるようになり、営業時間も通常通りになります。また、電気代に消えていたお金で、何かモノを買うようになれば、企業も潤って景気も上向きますからね」
ただし、家庭がどこまで節電できるかは不透明な部分がある。
「震災後、あなたは節電意識が高まりましたか?」。京都大学大学院経済学研究科の依田高典教授らは、東電管内でこのような設問からなる節電意識アンケート調査を実施した。
結果は、95%の人が「省エネ意識が高まった」。エアコンの設定温度を上げるという人も多く、回答の平均は、1.5度上げるというものだった。
しかし、依田さんは、「実際に人々がエアコンの設定温度を1.5度上げることは難しいでしょう」と予測する。
「頭では設定温度を28度に上げることが正しいとわかっていても、実際に気温30度以上の日が3日続いた場合、我慢できるでしょうか。それが3か月連続になればもっと厳しいでしょう。私は行動経済学が専門ですが、人間は現状を変えることを過剰に嫌がる傾向があります。新しい環境に対応するため心理的ストレスがかかるからです。したがって、頭で正しいとわかっていても、アメかムチを与えて背中を押してあげないとなかなか動けないんです」(依田さん)
※女性セブン2011年6月16日号