「泥こそ撤去されたが、付近の景観はほぼ震災当時のまま。家屋やマンションの補修費用の捻出に悩む住民も多い。そんなふうに見せ物みたいにして残してほしくないのに……」
地元住民からこんな声が聞かれたのは、液状化によって1m以上浮き上がった公園内のマンホールの保存が決まった千葉・浦安市。市は「被害の記憶にふたをせず保存することで市民の街への思いをひとつにしたい」と話しているのだが、実は同様に、津波が襲った宮城・南三陸町や石巻市などでも被災建造物を“遺産”としてそのままの状態で「後世に伝えよう」という意見があがっている。
雲仙普賢岳噴火の被災家屋を残す長崎の土石流被災家屋保存公園など、被災建造物を保存しているケースは全国でもいくつか見られる。だが、復旧・復興作業は始まったばかり。被災住民への理解と復旧への道筋が見えない状態では、自治体と住民の間にさらなる亀裂が生じるのではないか。
撮影■丹羽敏通
※週刊ポスト2011年6月17日号