国際情報

“英雄”オバマはビンラディン殺害時に偶然大統領だっただけ

 死者約3000人という、未曾有のテロ攻撃をアメリカに仕掛けたウサマ・ビンラディンが、ついに潜伏先のパキスタンで殺害された。しかし、俄に高まったオバマ大統領の評価に対して、ジャーナリストの落合信彦氏は疑問を呈す。

 * * *
 オバマは今年の7月にアフガンからの撤退を開始すると明言してきた。
 
 今回のビンラディン殺害成功は、米軍の“出口戦略”を後押しするとの見方がある。確かに、撤退はしやすくなるだろう。しかし、それで事態が好転するかと言えば、楽観はできない。
 
 オバマたちの事後処理のまずさは、「アメリカのやったことに問題があったのではないか」という考えを広めてしまう。オバマが焦って釈明すればするほど、アメリカへの不信は高まる。アルカイダの残党や、タリバンが狙っているのは殉教者としてのビンラディンを“神格化”することである。「アメリカの不正義によって命を落とした英雄のためのジハード(聖戦)」を彼らは虎視眈々と狙っている。ホワイトハウスが右往左往していては、神格化を手助けする結果にしかつながらない。
 
 アメリカへの不信が高まる中で米軍がアフガンから撤退すれば、反米勢力が野放図に活動できる巨大な“空白地帯”が生まれる。アフガン大統領のカルザイは、米軍という重しが取れれば平気でタリバンと握手するだろう。しかもアフガンの隣国には、前述の通り反米感情が高まるパキスタンと、反米テロ支援国家・イランが控えている。
 
 さらにその隣国はアフガンと並んで混迷の道を走るイラクだ。イラク南部には、イラン政府に同調するシーア派の集団の存在がある。中央アジアから中東まで、地続きとなる反米国家群の連帯は、「英雄の死」を掲げる国際テロ組織が媒介となって生み出されていく。
 
 オバマはビンラディン殺害に成功した。しかし、それは何もオバマだけの功績ではない。アメリカは9・11テロ事件以前のクリントン政権時代からビンラディンの殺害を狙っていた。
 
 10年以上、CIAをはじめ諜報機関が狙いを定めていった蓄積の延長線上に、今回の成功がある。オバマは作戦遂行のタイミングで、「たまたま大統領の職にあった」というだけだ。もちろん、オバマがビンラディン殺害を最優先事項の一つに挙げ、CIAに指示を出していたのは間違いない。だが、だからと言ってクリントンやブッシュに比べて何かが秀でていたとは決して言えない。「ビンラディン殺害を成功させたオバマであれば、対テロ戦争を望ましい方向に導ける」などと楽観的に考えてはならない。
 
 3000人の命を奪ったテロ集団の最高指導者の息の根を止めたことは喜ばしいことだ。だが、その成功がむしろ、“新たなる悲劇のプロローグ”となりかねないことを、忘れてはならない。国際テロリズムとの戦いのゴールはまだ彼方にあり、我々はその途上にいるに過ぎない。

※SAPIO2011年6月15日号


関連キーワード

関連記事

トピックス

田村瑠奈被告(右)と父の修被告
「ハイターで指紋は消せる?」田村瑠奈被告(30)の父が公判で語った「漂白剤の使い道」【ススキノ首切断事件裁判】
週刊ポスト
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
暴力団幹部たちが熱心に取り組む若見えの工夫 ネイルサロンに通い、にんにく注射も 「プラセンタ注射はみんな打ってる」
NEWSポストセブン
10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
宇宙飛行士で京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定教授の土井隆雄氏
《アポロ11号月面着陸から55年》宇宙飛行士・土井隆雄さんが語る、人類が再び月を目指す意義 「地球の外に活動領域を広げていくことは、人類の進歩にとって必然」
週刊ポスト
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン