「世界一の歯車へ」を標榜するUst番組「ザ・サラリーマン」。その構成を務めるDJサエキング氏には、全国のサラリーマンから「ザ・サラリーマン道」ともいえそうな“サラリーマンを生き抜く術”“サラリーマンの様式美”に関する目撃談・体験記が続々と寄せられる。今回は中堅の広告代理店に勤めるNさん(29歳)から。
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広告は受注してから“モノ”を生産するので、得てして、クライアントが注文した内容と異なる場合が多く、クレームに繋がることも少なくないんです。そんな時、アドマンとして絶対必要となるスキルが“言い訳力”なんです。
Nさんが所属する第2企画営業グループには、卓越した“言い訳力”を駆使して数々の試練を乗り越えた人物がいる。上司である課長のA氏(42歳)だ。
このA氏曰く“言い訳とは即ち、善い訳なり”らしい。
つまり、人を幸せにしてこそ、言い訳だそうだ。正直よく分からないのだが、彼の列伝のほんの一部をN氏の証言をもとに振り返ってみたい。
それは課長のA氏にあるお菓子メーカーの宣伝部に同行営業してもらった日のこと。課長がアポイントの時間を勘違いしていて、到着が約束の時間から30分遅れとなってしまった。
怒り顔で理由を尋ねてくるクライアントに「すみません、実は行きの電車の中で、貴社のお菓子の味について熱心に話している女子高生がいまして、これは! と思い聞き耳を立てていたところ乗り過ごしてしまい……。本当に馬鹿でした。きちんと下車すればよかったです……」
これは聞いたクライアントは、その噂話の続きが大変気になる様子で遅刻どころか、その電車内での姿勢を褒める始末。無論、そんな噂話も女子高生も存在しないただの作り話なのだが、クライアントはすっかり信じ込んだ様子で、大変満足な顔をしていたという。
これが、課長の言う「言い訳とは即ち、善い訳なり」なのかと、Nさんは始めてその意味を目の当たりにした。そんなA氏だが、彼の言い訳力は、自身の失敗のみならず様々シーンで活用・応用されている。
提出した「見積りが高い!」と激高するクラアントに、理詰めでの説得は無理とその表情から判断するや否や「何言っているんですか! 広告原稿で言うのところの初校ですよ初校。いわばタタキ台、いやラフですよラフ! わははは」と、相手の上げたこぶしをそっと下ろさせる手腕は天下一品だ。また、帰り際も「高いところからすみませんでした」と結びの言葉も忘れない。お陰様で、後日ラフへの修正はたっぷりもらいましたが。
そんな言い訳ばかり言っている課長のA氏だが、年齢柄、やはり昇進が気になるらしい。
先日課長が社長室の来訪履歴をチェックし、ライバル達の動きを探っていた矢先、なんと運の悪いことに社長に発見されてしまった。「何をしているんだ!」――そんな時も課長の言い訳力はいかんなく発揮される。
「実は、最近体調が優れなくて……。会社のパワースポット“社長室”に来れば、元気になれるんじゃないかと」社長に急接近を果たしのであった。「パワーの意味がちゃうやろっ(笑)!」のつっこみ(ここは大阪)が入ったことがそれを証明している。ピンチをチャンスにとは、まさにこのことである。