「原発建設ラッシュ」となっている中国ではいくつもの問題が起きていた。大事故にもつながりかねない、原発をめぐるトラブルについて、ジャーナリストの富坂聰氏が報告する。
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現在稼働中の原子力発電所は13か所。6月15日から広東省の嶺澳原発で新たに1基が商業運転を開始し、2020年までに新たな稼働を予定している原発は28か所、批准段階の計画も含めれば100か所を上回り、さらに2050年までには230基へ増やすという計画もある。これが原発シフトに邁進する中国の現状だ。
水冷の利便性や大都市の電力需要を考えれば、これら原発が沿海部にズラリと並ぶことは避けられない。一度“事故”ということにでもなれば、福島原発以上の被害が日本を襲っても不思議ではない。
空には、大陸から黄砂を運んでくるほどの強い偏西風があり、海にはエチゼンクラゲを運んでくる海流が日本に向かって流れているからだ。
ただ、その場合、日本より甚大な被害を受けるのは香港と韓国である。その香港で今、福島の事故を受けて、中国の原発推進政策に批判の声が上がっている。
「香港からわずか50kmの距離にある大亜湾原発で昨年、放射性物質が漏れる事故があったのですが、これを当局はメディアが騒ぐまで隠していた。この対応の不誠実さを、福島の事故で改めて思い出した」(日系企業の香港人)
現状はまだ本格的な反対運動ではないというが、現地のジャーナリストは、中国の原発に隠された問題に対し、もっと深刻な見方を示す。
「10年ほど前、大亜湾原発の建設過程での手抜き工事が話題になりました。太さが規格に満たない鉄骨を使用し、材料費を浮かせようとしていたのです。鉄骨はすぐに換えられ、その後は手抜きもなくなったとされていますが……やはり不安は大きい」
懸念が深まる理由は他にもある。それは、福島で事故が起きるまで中国には原発を「危険」と考える認識がほとんど根付いていなかったことだ。
在北京の記者が語る。
「原発銀座と呼ばれる中国沿海部の浙江省には、2013年に世界初の加圧水型原子炉(第3世代)の完成が予定されています。その『三門原発』の近くには驚くべきことに、原子炉からわずか数百mの距離に5ツ星ホテルが建てられている。こんな事実一つをとってみても、いかに彼らが原発のリスクを認識していないかが理解できるでしょう」
※SAPIO2011年6月15日号