アメリカは、原発がテロの標的になることを恐れてきた。そして今、ビンラディン殺害で、原発テロに対するさらなる警備態勢の徹底に動いている。しかし、米ジャーナリスト、ステファニー・クーク氏は「それでも不十分」と説く。
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原発テロへの防御策を担当する米原子力規制委員会(NRC)は、2001年に同時多発テロ事件が起きて以降、通称「B5b」と呼ばれる新たな安全対策を導入し、これを遵守せよと原発事業者に義務づけていた。
これは、ニューヨークの世界貿易センター・ビルにテロリストたちが乗っ取った航空機を激突させたような航空機による激突攻撃を想定した事態から原発施設を守る狙いでとられた措置だ。
だが、せっかくルールを策定したにもかかわらず、NRCが各原発施設をチェックするのは、3年に1回。しかも原発の安全対策装備を包括的に査察するのではなく、一部を無作為抽出的にチェックしているにすぎないことをNRC自体が認めるというズサンさが問題になった。
今ひとつの問題は、原発の安全性をチェックし、規制するはずのNRCと業者との「Cozy relationship」(癒着関係)。NRC幹部が退職するや現役時よりも数倍高い給料で雇われたケースが露呈し、批判されている。
こうした「癒着」が、例えば、原子力発電事業者にとってはカネのかかる追加的な原発火災対応措置の基準決定に時間がかかったり、原発の警備員が勤務中に居眠りしていた事実をNRCが見て見ぬふりをするなどといったことを生み出している。「国民軽視」も甚だしい。
NRCが作成しているテロリストの攻撃から原発を守る計画に関してもあまり安心できるものではない。同時多発テロ事件以降、NRCは「B5b」とは別にテロリストによる原発破壊工作などから原発を守るための助言や勧告を出してきた。
これは、米連邦捜査局(FBI)の危険人物リストを参考にした人的チェック体制のほか、原発周辺のパトロールの増強や物理的な障害物の建設などを義務づけたものだ。
NRCはさらに政府が原子力発電事業者の原発施設に対する「防衛能力」(Defensive capability)を「著しく強化」(Significantly enhanced)し、「水上からの攻撃、自動車に仕掛けた時限爆弾、陸上からの攻撃に対抗する」防御措置をとるとしている。
だが、現実問題として、テロリストたちが原発に攻撃を仕掛ける時は、狙撃、手榴弾、自動小銃を使うケースのほうが多いだろうし、しかも予期せぬような方向から侵入してくる可能性がある。この程度の「防御能力」強化では心許ない。
※SAPIO2011年6月15日号