東日本大震災では多くの人が家を失ったが、そんな時代だからこそ経営コンサルタントの大前研一氏は、改めて「家は買ってはいけない」と警鐘を鳴らす。
* * *
東日本大震災では約9万戸(工場や店舗も含む)が全壊し、大勢の人が家を失った。なかでも保険の適用がない人の被害は深刻で、住宅ローンだけ残った人も多い。また、地震や津波のリスクが改めて浮き彫りになったことで、住宅の資産価値が大きく目減りした地域も少なくない。
たとえば、一部で地盤が液状化した新浦安では、新築高層マンションの価格が3割も下落した。25年も前から私は「住宅を買ってはいけない」と警告してきたが、残念なことに今回それが最悪かつ最大のスケールで証明されることになってしまった。
そもそも私が日本人の“持ち家信仰”に警鐘を鳴らしてきたのは、日本ほど「買った瞬間に住宅の価格が下がる」国は世界にないからだ。買った時が一番高く、その後はどんどん値下がりして、一戸建ては10年後には銀行の査定だと土地の値段だけになってしまう。
欧米は日本と逆に買った時が一番安く、徐々に価値が上がって将来の資産になる。しかも、たいがい値上がり率は銀行預金や株式よりも高くなる。
日本で住宅の価格が下がる理由は二つある。一つは「街並み」の問題だ。アメリカの場合、住宅街は時と共に磨かれ、充実していく。最初は殺風景な新興住宅街でも、だんだん樹木が大きくなって街並みが整備されていくと街そのものに落ち着きが出てきて、10~20年後には高級住宅街になる。つまり、街並みにはワインと同じようにビンテージがあり、時間が経てば経つほど熟成されていくのである。
一方、まだ日本人は街並みが住宅の商品価値を上げる最大の要因だということに気づいていない。だから、住民に街並みを磨き、壊さないようにするという配慮がない。新興住宅街は出来上がった時が最もきれいで、時と共に寂れていく。
代表的な例は東京の田園調布だ。かつて田園調布は日本の高級住宅街の代名詞だった。ところが今や、その面影は全くない。1980年代のバブル期に相続税対策で多くの家が土地を切り売りしたり、借金をして庭先に子供の家や賃貸住宅を建てたりしたため、広々としていた区画が細切れになって家が建て込み、街並みが貧相になってしまった。日本は相続税の問題が足枷となり、高級住宅街を世代を超えて維持することがきわめて困難なのである。
※週刊ポスト2011年6月17日号