世界保健機関(WHO)の専門組織である国際がん研究機関(IARC)が5月31日、携帯電話の電磁波とがんの関係について、驚くべき調査結果を公表した。「1日30分間、10年以上通話し続けると、脳のがんの一種である神経膠腫の発症率が1.4倍になる」というのだ。
携帯電話の電磁波の危険性を指摘する声はこれまでにもあり、宮崎県延岡市では、携帯電話の基地局の影響による健康被害をめぐる訴訟も起きている。
延岡市は人口13万人の工業都市で、夏目漱石の小説『坊っちゃん』にもその地名が登場する。基地局に関する訴訟が起きているのは、市街地の西側にある大貫町だ。この地区にある3階建てのマンションの屋上にKDDIの基地局が設置されたのは、2006年秋のこと。その直後から、耳鳴りや頭痛などを訴える住民が相次いだという。そこで周辺住民30人が2009年12月、KDDIに対して基地局の操業差し止めを求める訴訟を起こした。
原告団長の岡田澄太氏は、基地局から50m先の一軒家に住んでいたが、耳鳴りと頭痛が治らず、10km離れた実家に身を寄せた。
「基地局ができた直後からでした。そのころは夫婦で毎夜8時30分ごろから1時間くらい4~5kmほどウオーキングをしていたんです。ある日、基地局近くの橋を渡ったときに、家内が“キーンって耳鳴りがする”っていいだしたんです。年を取ったら耳鳴りもするし、気のせいかなと思ってたんです。その後、夫婦ふたりとも、遠くで飛行機のキーンというエンジンのような音や川の流れるような音が頭の中でし始めたんです。病院で両耳鳴症という診断書をもらいました」
2010年11月に周辺の3自治体が地域住民に実施したアンケートでは、回答のあった265世帯のうち102世帯162人が基地局設置後に体調の異常や悪化を訴えたという。岡田氏の妻がこう続ける。
「何もしないのに、鼻血が出るという人もいます。この地域の住人さんたちの挨拶は、“今日はいい天気ですね”じゃないんです。“昨日は(電磁波が)きつかったね”とか“いま、(電磁波が)強くなったね”っていうんです」
KDDI側は住民と真っ向から対立。本誌の取材に対しても「基地局の電波が周辺にお住まいのかたがたの健康に悪影響を与えることはないものと認識しております」(KDDI広報)とコメントした。しかし、住民側の徳田靖之弁護士は、先のIARCの調査報告に期待を寄せる。
「これまで、電磁波と健康被害に関する膨大な量の論文を裁判所に提出してきましたが、すべて“国際的に認められていない”のひとことで片づけられてしまっていました。しかし、今回のIARCの発表が今後の裁判に与える影響は大きいと思います」
※女性セブン2011年6月23日号