軍拡が続く中国。とくにその海軍力の増強には目を見張る。気になるのは空母だが、実はアメリカが空母艦隊出現よりも恐れるもう一つの海の近代化兵器が存在すると、ジャーナリストの古森義久氏がレポートする。
* * *
アメリカにとっていまの中国海軍力の大増強の、具体的にどの側面が最も脅威なのか。アメリカ国防大学教授のバーナード・コール氏が語る。
「非核の攻撃型通常動力潜水艦の建造だと思います。中国はこの型として旧ソ連からこれまでに12隻のキロ級ディーゼル潜水艦を購入しましたが、独自にも『宋』級、『元』級の攻撃型潜水艦を開発しています。どの海軍にとっても対潜戦略というのは難しい課題です。アメリカ海軍がたとえ優位でも、攻撃型潜水艦の脅威は大きいのです。この脅威は単に台湾有事シナリオだけでなく、他の海域でも同様です」
確かに中国潜水艦は日本の領海にもたびたび侵入してきた。米海軍艦艇の至近に突然、浮上して米側にショックを与えた事例もある。
中国はアメリカ本土に核ミサイルを撃ち込む能力を持つ戦略弾道ミサイル原子力潜水艦の「晋」級や「夏」級、攻撃型原子力潜水艦の「漢」級などの開発や配備も進めている。
だがコール氏は中国のこれら原子力潜水艦は、まだアメリカにとって重大な脅威にはなっていないとの見解を示した。
しかし中国の通常動力潜水艦群への懸念は、1990年代の前半に4年ほど国防総省の日本部長を務めたポール・ジアラ氏も強調するのだった。
「それら潜水艦は最近は潜航中に発する音も小さくなっており、米軍側が探知することがより難しくなっています。しかもそれら中国潜水艦は対艦の巡航ミサイルや魚雷の能力を高めています。いま現実に想定されるような米中海軍の衝突では、通常動力型潜水艦群の威力はアメリカ側にとって深刻だといえます」
※SAPIO2011年6月15日号