夏が暑くなりそうだ。電気があまり使えない=クーラーが使いづらいとなると、おののくばかりだが、世界にはもっともっと暑い土地、酷暑地帯がある。「そこに比べると日本はまだまし」という話をお届けしよう。フリーライターの輔老心氏が報告する。
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「ワ」はアフリカのガーナ北部アッパーウェスト州の州都。ブルキナファソとの国境近くの街である。州都とはいえ、電力はあったりなかったり、水道も朝の水汲み頼り。そして、乾期の気温は日中常時40度オーバー。
JICA(国際協力機構)のボランティアとして約2年間、学校でコンピュータを教えた古川彰さん(37歳)の体験した酷暑の世界とは。
「ワでは汗をかくことがありません。汗が出ない。皮膚の表面に出た瞬間から蒸発していくからです」
ということは、意外にお肌は常にさらさらなのか?
「ざらざらです。塩分が皮膚に残るので、首のまわりは常に塩でざ~らざらしてます。自分の水分が飛んで枯れていくことがわかりますね」
とにかく水を飲む。1日に5リットルは飲む。そうしないと“枯れてしまう”のだ。メシの味は濃い。塩っぽくて油がキツい。体からエキスが汗とともにどんどん出て行ってしまうから、補給しなければ! なのだ。
そして、街の様子はといえば、昼間はゴーストタウンのように見事なまでにシーンと静か。日の出前から午前中、日が落ちてからが人の活動時間だとか。じゃあワの人は昼間は何をやっているのか?
「横になっています。ぐったり、のんびり、昼寝しています。今日は暑い! と言いながら(笑)」
現地の人もついつい「暑い」と言ってしまうところが面白い。何年住んでも暑いのだろう。
「最初の頃は、ワの人たちの一連の動きがあんまりにものろのろしているので、ちょっと頭にきたんですよ。『これ、やっといてね』と頼んでも『わかったよ』と言って昼寝してますしね(笑)。でもだんだんわかってきた。無駄に早く動くと、体内で熱が発生してしまう。熱を生まないようにそーっとゆっくり動いていたんです。生きる知恵ですね」
古川さんは咄嗟に「高い山に登った時に高山病になる感覚」をイメージしたという。そして、郷に入っては郷に従えの教え通り、せかせか動くことを極力セーブしたそうだ。暑さ対策として。そうやって、現地での水の飲み方、身のこなし方を少しずつ学んでいった古川さんだが、大問題に突き当たる。
「夜、眠れないんです。暑くて暑くて!」
熱帯夜。現地の人はどう寝ているのか。その工夫とは……外で寝ることだった。彼らは「暑っつーいよ! 今年は暑っつーい!!」と言いながら、家の外、屋根の上で寝る(屋根から落ちる事故もたまに起こる)。まだ、風にあたる可能性があるからだ。密閉された屋内は蒸し風呂のようになってしまうのだ。
ところが、古川さんは外で寝られなかった。蚊に刺される心配があるからだ。マラリアに罹患すると面倒なことになる。では屋内で寝る工夫は?
「現地の日本人のあいだで、“アレ”をやるしかない、と呼ばれていた方法があります」
それは、自分の寝床に、ひしゃくで水を撒くという荒業だ。そんなことしたらびしゃびしゃになってしまうのでは?
「びしゃびしゃの寝床で寝るんです。水分が蒸発する時の気化熱で少し温度が下がる。それは2時間続きます。2時間で乾いてしまうので、暑くなって起きて、また水を撒き、寝る。それを一晩3回くらい繰り返す。
細かいテクニックとしては背中があたる部分を濡らすと体調が悪くなる場合があるので、そこだけは避けて水を撒くこと」
う~む、壮絶。今年の夏、我々が使えるとは思えないが、そこまでしないと眠れないとは!
「あとは保冷剤ですね。電気が通じているうちに氷を作り、クーラーボックスで保冷剤を冷やし、夜、その保冷剤を枕にするんです。『俺は恵まれている。電気が通じる時間帯があるんだものな~。保冷剤があるなんて、あぁ俺は恵まれてる!』と思いながら、2時間刻みで寝るんですよ」
※SAPIO2011年6月15日号