菅直人首相が退陣表明した当日の6月2日に官邸で開かれた「社会保障改革の集中検討会議」では、2015年までに消費税率を10%にする社会保障改革案が発表された。今後4年間で5%の大幅アップである。
不信任案採決の日に発表が重なったのは偶然ではなかった。民主党「社会保障と税の抜本改革調査会」メンバーの議員が証言する。
「社会保障制度をどうするかの党内議論さえ煮詰まっていないのに、仙谷由人・調査会長や与謝野馨・経済財政相が政権の先行きが短いと見て発表を急いだ」
当然ながら、急ごしらえでまとめられた中身はデタラメもいいところだった。まずメディアが無批判に報じた「新たな財源が2.7兆円必要になる」という説明だ。内容は「在宅医療の充実」や「小学生向け放課後児童クラブ」などへの予算を増やすというもの。しかし、これなら1%(2.4兆円)強の増税ですむはず。5%(12兆円)も引き上げる理由にはならない。明らかに便乗値上げだ。
改革案を紐解くと、その他の4%分はドンブリ勘定であることがわかる。内訳は年金の国庫負担2分の1への引き上げで1%、その先は根拠が示されないまま「機能維持」で1%、「高齢化」で1%、極めつきは「増税によって政府支出が増えるからもう1%税率を上げる」とされている。
これらの増税分は国民が今のまま生活していくために必要な財源だと思わされているが、そうではない。
制度を現状のまま変えなければ、4年後に必要になる社会保障費の自然増は政府試算を信じても4.2兆円。さらに、これにはインフレ分が水増しされているため、現在の成長率のままなら自然増は3兆円ほどで済む計算だ(消費税1.2%分)。
この程度の財源なら消費税の引き上げはそもそも必要ない。今回の増税計画は、社会保障財源が足りなくなる分を賄うためではなく、消費税を5%上げないと足りないようにわざと制度を作り変えている。いわゆる後づけの作文だ。
元財務官僚の高橋洋一・嘉悦大学教授が指摘する。
「今後、高齢化で財源が足りなくなるのは主に医療・介護分野だから保険料を見直せば済む。年金の国庫負担引き上げも歳出削減でやればいい。そうした議論がまるでなく、最初から増税ありきの計画で、お粗末すぎる」
※週刊ポスト2011年6月24日号