政府は菅直人首相の退陣論が高まりつつあった5月24日、内閣官房に「東京電力に関する経営・財務調査委員会」の設置を決定した。同委は東電の遊休資産や経営の無駄、不透明な取引をあぶり出して被災者への補償金を捻出する役割を担う。
委員の人選は仙谷由人・官房副長官と枝野幸男・官房長官が主導し、仙谷氏は自ら経営・財務調査委員会の下で総資産14兆円という東電の経営状態を実際に調査するタスクフォースのチーム長に就任した。官房副長官が民間企業への“マルサ部隊”を率いるなど前代未聞だが、それは東電の生殺与奪を仙谷氏が握ったことに他ならない。
元経産官僚の岸博幸・慶応義塾大学大学院教授がこう語る。
「東電は政治献金や選挙支援で多くの議員に影響力を持ち、経産省とも表裏の関係にあり、さらに経団連の中枢企業でもある。その東電の財務情報には、電力族議員との癒着を示す材料など、表には絶対に出せない秘密が数多くあることは間違いないでしょう。それを掌握した政治家は“新たな電力のドン”になることを意味します」
それを狙う仙谷氏が次に打ち出したのは、大震災でストップしていた原発輸出の推進だ。
菅首相が退陣を表明した6月2日、都内ホテルで仙谷氏主催の歓迎夕食会が開かれた。ゲストは日本が原発輸出を計画しているベトナムのチュオン・タン・サン次期国家主席である。
仙谷氏と前原誠司・前外務大臣はベトナムへの原発輸出を推進してきた両輪である。2人は昨年5月にベトナムを訪問し、東電を中心とする日本企業連合の受注を成功させた。しかし、原発事故が起きると海江田万里・経産相は「安全性が確定するまで原発輸出は足踏み状態にならざるを得ない」と慎重論を唱え、計画が中断していた。
ところが2人は、不信任案騒動のドサクサの中、輸出再開に舵を切る好機とばかりに動いたのである。
前原氏は6月1日にサン氏と会談、2日は仙谷氏が歓迎夕食会を開催。いずれもメディアの取材は不可だったが、前原氏は5日に民放テレビに出演し、「次期主席は原子力の契約は変えるつもりはないと表明してくれた。原発も安全性を高めて海外に売っていくことが大事だ」と自慢気に語った。
ちなみに2日の夕食会の費用は、「幹事長の了解を得て党でもちました」(民主党幹事長室)という。
※週刊ポスト2011年6月24日号