首相辞任とポスト菅をめぐる大騒ぎが、連日メディアを賑わせる。一方、次々発覚する原発事故の情報隠蔽は、それに隠れ大きく報道されることはない。それを見て、上杉隆氏は呆れ、そして確信したという。この国でジャーナリストを名乗ることはできないと。上杉氏がそうしたメディアのあり方に疑問を投げかける。
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記者クラブメディアがポスト菅の候補にあげる枝野幸男・官房長官だが、なぜいますぐ辞任すべき人物が次期首相なのか、はなはだ疑問である。彼は官房長官として、原発事故から3か月間、東電とともに「メルトダウンはしていない」「格納容器は健全に守られている」「放射能の外部放出はない」「放射能汚染水の海洋流失はない」などといい続けてきた。
それが、いまやどうだろう。1号機は3月11日午後8時頃にはメルトダウンしていた。それどころか、燃料が原子炉圧力容器の底に溶け落ち、容器に開いた穴から外側の格納容器に落下して堆積する「メルトスルー(溶融貫通)」まで起きていたのだ。事故から6日間の放射能放出は、4月に報告された数値の「倍以上」に訂正され、重いから飛ばないとされていたプルトニウムが原発敷地外から検出された。
結果として枝野氏は、東京電力とともに国民にウソをつき続けていたことになる。それだけではない。政府は情報を隠蔽することで、国民を重大な危険にさらしたのだ。
放射能拡散予測システム「SPEEDI」の結果などを公表しなかったことで、高放射線量を記録した飯舘村などの住民の被曝を招いた。また、半減期が長く、骨などに蓄積しやすい放射性物質ストロンチウム90の調査を怠り、最近になって原発から62キロ離れた地点から検出された。
さらに政府は、国際環境NGOグリーンピースからの海洋放射能汚染調査に関する協力要請を拒否していた。私はグリーンピースの調査をもとにした取材結果を『週刊文春』で発表したが、それがなければ国民は、海産物の放射能汚染の実態を知らされないままだったことになる。
本人に悪意はなく単に能力の問題なのだろうが、3か月間にわたってウソと情報隠蔽で国民を騙してきた枝野氏の、結果責任は重い。だからこそ私は、即時辞任を求めているわけだが、これが既存メディアの手にかかると次期首相候補になってしまう。
記者クラブは、「これは自分たちの意見でなく、世論調査の結果、国民の声だ」というかもしれないが、読売の電話による世論調査では、「次の首相には、誰が最もふさわしいと思いますか。次に読みあげる11人の中から、1人だけ選んで下さい」との設問の後に、「1、枝野幸男」と彼の名前が筆頭に来ている(ちなみに2が岡田克也幹事長)。世論調査においては、一番初めの選択肢が選ばれやすくなる傾向があり、これも印象操作の一つなのだ。他の既存メディアにしても、彼への批判はほとんど見られない。
※週刊ポスト2011年6月24日号