法や規制には、「世の中にこういう秩序をもたらしたい」という理念がある。だが、目的と方策が合致していないタイプの“おバカ規制”が実はたくさんある。「ハケンの規制」にはそんな問題が満載だ。元通産官僚で行政改革担当大臣補佐官も務めた原英史・政策工房社長が解説する。
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2010年2月、厚生労働省から出された文書が全国のオフィスに大騒動を引き起こした。
会社側が特定の派遣社員たちに、「どんなに電話が鳴っていても、出てはいけない」「人が出払っている時にお客様がいらしても、絶対にお茶を出すな」などと、不思議な指示を出したのである。
原因となった文書は、「専門26業務派遣適正化プラン」という職業安定局長通達だった。
オフィスで事務をこなす派遣社員には、法令上、2種類ある。1つは、労働者派遣法施行令で定められた26業務のうち「5号業務」と言われるもので、〈電子計算機、タイプライター、テレックス又はこれらに準ずる事務用機器の操作の業務〉の専門職種で契約している人。もう一つは、「一般事務」だ。
この2つは契約期間などで法令上の厳然たる区別がある。「5号業務」は派遣期間の制限なしだが、「一般事務」は原則1年まで(手続きを踏めば最長3年)、となっている。
とはいえ、仕事の現場はそう単純に切り分けられない。契約上は「パソコン操作」などに限定されている「5号業務」の派遣社員も、鳴り続けている電話くらい取る。従来は、そういう「付随的な業務」も常識の範囲内で認める趣旨の通達が出されていた。
ところが、厚労省は局長通達(適正化プラン)で規制を強化し、さらに細則を定めた「疑義応答集」で、〈5号業務の実施に伴い、お茶くみが必要になるとは考えられない〉、〈業務の実施に電話応対を要しないときの電話の応対〉を少しでも行なっている場合は、5号業務を含む専門26業務とは認められないなどとした。
違反すれば、たちまち「違法な派遣契約」として取り締まり対象になる事態に。
規制強化の目的は恐らく、「企業がお茶汲みなどの『一般事務』のために長期で人員確保したいなら、本来『正社員』として雇うべき。でも、そこで専門職種(5号業務)として期限なしの派遣契約を結び、正社員になれない『かわいそうな派遣社員』が生まれている。彼らに安定した雇用機会を提供しなければ!」ということだったのだろう。
しかし、もたらされた結果は、職場の大混乱通達を機に「これでは派遣なんてもう雇えない」と派遣切りや採用縮小する企業が続出した。
泣きを見たのは長期にわたって職を得ていた派遣の人たちだ。小嶌典明・大阪大学大学院教授によれば、「5号業務の実稼働者数は、この3年間で約25万人から、半分以下の約12万人に減少した。一部には派遣先に直接雇用された者もいるが、失職した者も少なくないと思われる」という。
「職業安定局長」の通達が派遣の雇用を不安定にしたのだ。
※SAPIO2011年6月15日号