原発廃止を訴える書籍がベストセラーとなり、各世論調査では原発を「減らすべき」「すべて廃止すべき」と考えている人が4割を超える。しかし、原発を全て廃止した場合、はたしてそのデメリットも承知した上での考えなのか、獨協大学教授の森永卓郎氏が疑問を投げかける。
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東京電力の電力需給逼迫の陰で世間ではほとんど注目されていないが、実は関西電力も極めて深刻な状態にある。
関電は福井県内に11基の原子炉をもち、原子力の発電量のシェアは48%(過去10年の平均。設備容量では28%)で原発依存度がもっとも高い。東電管内のシェア28%(2009年度)をはるかに超える。
この11基の内、5基が定期検査中だが、西川一誠福井県知事が「国が安全基準を示さない限り再開を認めない」と首を縦に振らないため、運転再開の目処が立っていない。さらに夏までに新たに最大2基が定期検査に入るので、計7基が止まり、供給能力は3000万kWを大幅に下回って、ピーク需要に対応できなくなる。
それだけならまだしも、東北の製造工場が被災した企業は、関西への製造拠点移転や関西の既存工場の増強を実施している。自動車など震災の影響を受けたメーカーは、6~7月頃から生産ペースを引き上げていき、遅れを取り戻す意向だ。例年並みの電力需要と予想していたら、想定外の需要増大が襲いかねない。
このような危機的状態にあることを橋下徹大阪府知事は理解しているのだろうか。
脱原発を標榜し、浜岡の停止を「菅首相の大英断」と評価したが、大阪府民の生活を守るためには、むしろ福井県知事と原発の周辺住民に土下座して原発の稼働をお願いするのが府知事の仕事ではないか。
政府にしても、こんな状態にある関電に対し、「東電、中電に電力を融通せよ」と要請しているのだから、今の事態をまったく認識していないことは明らかだ。
運良くこの夏を乗り切れたとしても、その先にはさらに恐ろしい未来が待ち受けている。原発というのは、13か月運転したら定期検査を実施することが法で定められている。
つまり、このまま運転再開が認められないと1年後には日本中の原発が全基停止する。日本はたった1年で脱原発を果たそうとしているのだ。
※SAPIO 2011年6月29日号