福島第一原発の事故処理は、それ自体が、“巨大ビジネス”になろうしている。ゼネコンや国際的原子力企業も以外にも特需が生まれつつあるとジャーナリストの伊藤博敏氏は指摘する。
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原発事故をめぐっては、上限を定めない損害賠償で、東京電力の負担がいくらになるか見当もつかない。
ただ、約10万人の避難住民の生活費と損害賠償、風評被害も含めた農畜産業・水産業への賠償、休業補償や営業補償、それに避難費用や引っ越し費用など細々としたものまで含めると、10兆円に達すると目されている。
損害賠償請求は原子力損害賠償法に基づいて認められており、その指針は「原子力損害賠償紛争審査会」で作成されているが、出荷制限を受けた農家の全農作物の風評被害を認めている。
賠償指針は7月中に決まり、それに従って被災者が東電に被害請求し、賠償交渉が行なわれる。合意に達すれば和解金が支払われ、合意不成立の場合は、民事調停や民事訴訟で決着をつけることになる。
弁護士の出番である。
「仲間内では、『次は原発』というのが常識だ」
こう漏らすのは多重債務者の過払い金返還請求訴訟で名を売った弁護士。彼ら弁護士にとって「ポスト過払い金返還」が原発賠償訴訟であり、これが“特需”となるのは間違いない。
なにしろ出荷制限を受けた農家だけで8万4000戸に達し、風評被害は東北から関東一円に及ぶ。避難地区には約8000社の事業所があり約6万人が働く。20km圏内には3500頭の牛、3万頭の豚、68万羽の鶏が残された。家を奪われたのは10万人。そのすべてに損害賠償請求が発生するのだから気が遠くなる。
ただ、今は恭順の意を表している東電も賠償交渉となると、顧問弁護士が居丈高に補償額を削ろうとするのは目に見えている。個人が対抗するのは無理だ。過払い金返還で「請求のマニュアル化」を覚えた弁護士に、“活躍の場”が与えられる。脱原発ビジネスの一つとしては見逃せない。
※SAPIO 2011年6月29日号