6月下旬に成案がまとめられる「税と社会保障の一体改革」に向け、消費税の引き上げが議論されている。
税収アップで財政再建の端緒となるのかと思いきや、そうではなく、「1ドル=100円超の円安への転機となる可能性がある」と三菱UFJリサーチ&コンサルティング執行役員の五十嵐敬喜氏は指摘する。
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震災から3か月。民間企業が復興に向けて着実に歩を進める一方、政府の体たらくが日本経済の足を引っ張っている。うした中、民主党政権では、これまで政府がなかなかできなかった大きな“政策変更”を進めようとしている。 それが「消費税増税」だ。
復興財源や財政再建のために必要だと言われてきた消費税の税率アップだが、結論から言うと、私はそれが「悪い円安」を引き起こすトリガーになると懸念している。結果、2015年には、1ドル=150円に進む可能性もある。
その話をする前に、直近の市場を取り巻く状況から順を追って説明していこう。まず年内を見据えた短期的な傾向から分析すると、ここから大きく円高に向かう余地は少ない。
というのも、そもそも円はドルをベースとして動くため、米国の景気の影響を強く受ける。現状、米国の景気は底堅く、年初の予想よりいくぶん回復のペースが鈍ったとはいえ、堅調に推移している。さらに大幅にドルが売られ、円高になることは考えにくい。
もう一つ、円高になりづらい理由がある。それは、海外の投資家にとって、日本株はリスクが高いからである。
もちろん震災の後遺症もあるが、現在の政府は東京電力の債権者に債権放棄を促したり、浜岡原発を停止するよう突然要請するなど、“ルール無視”の行動をするものとして外国人投資家から捉えられている。
そんな国の株は、リスクが高くてとても積極的に買うことはできない。日本株は基本的に円でしか買えないため、その資金を調達するためのドル売り・円買いの動きにはならないから、円高には動きづらいのだ。
一方、欧州に目を移してみると、ECB(欧州中央銀行)はインフレ警戒を強めており、すでに利上げを行なっている。だから緩和政策が続く円は相対的に安くなる傾向にある。
とはいえ、今年から来年にかけては、米国経済が急激に回復しない以上、オバマ政権は現在のドル安戦略をとり続けることもあり、大きく円安・ドル高に向かうこともなさそうだ。
特に今年はゆるやかな円安基調の中で「あまり動かない年」になると思われ、年末には1ドル=85円前後で推移すると見込んでいる。
※SAPIO 2011年6月29日号